『恋は盲目』


背後のテーブルでは、驚いた一団がこちらを見下ろしていた。
アメリアも驚いて思わず指を差す(こらこら)
「あああっ!!ホントだっっ!!
黒髪で、短くて、目が若葉色で、それでもって趣味の悪いピアスしてるっ!!」

「な、なんだなんだ君達はっ!!いきなり失礼じゃないかっ!!」
アメリアに指摘された男性が憤慨して席を立つ。
「何の因縁があって言い掛かりをつけるんだっ?こっちは今、取り込み中なんだ!
朝から花嫁が行方不明なんだからなっ!」
「あああっ、やっぱしいいいい!!
ほらほら、見つかりましたよ、婚約者さんですよ、この人でしょうっ?」
アメリアが依頼人をぐいぐいと引っ張って、男性の前に立たせた。
「あなたが探していた花嫁さんて、この人でしょう?
ああ、無事に解決できて良かったですね!!これで結婚式ができますねっ!!」

「……………………」
「……………………」
女性と男性はお互いの前方を凝視していたが、二人そろってリナを振り返ってこう言った。
「どこに?」
「…………………へ?」
「だから、どこに人がいるんです?何も見えませんけど。」
「え、えええっ??」
訳がわからず立ち尽くす一行。


どかどかどかっ!

そこへ、食堂の入り口からどやどやと大人数が駆け込んできた。
中には引っ張ってこられた様子の牧師までいる。
「ああ、いたいた!こんなところに!!」
「よかった、見つかったんだね、さあ、お式を!」
どうやら新郎新婦になる予定だった二人の、家族や親戚のようだった。
それぞれに取りすがり、背中をぐいぐい押して食堂から出そうとする。
二人はそれに必死に抵抗した。
「だから、どこにいるんですか、僕の花嫁はっ?」
「式は彼がいなきゃ挙げられないわっ!」
「何を言ってるんだい、二人とも揃っているじゃないか!」
「どこに?僕には見えないよ!」
「私の夫になる人はどこにいるというの?皆でからかったりして、ひどいわっ!」

集団は困ってしまい、顔を寄せ合って、ひそひそと相談。
「どうしちゃったんだろね、この子達は!」
「混乱してるんだろう、とにかく家に帰って休ませよう。式は明日に延期でも。」
「ああ、そうだね。じゃあまた後で。」
「はいよ。」
 
どかどかどか…………
 



 
リナ達一行がぽかんと立ちつくしている間に。
まるで嵐が来て、全てを連れ去っていったかのようだった。
「………………………」
何となく顔を見合わせる四人。
「何だったんだろう、あれは…………?」

「ああっ!!」
途端にリナが頭を抱えた。
「どうした、リナ!?やっぱり頭打ったのかっ!?」
ガウリイが心配そうな顔でリナの頭をさする。
「違うわよっ!依頼料、もらいそこねたじゃないのよ〜〜〜っっっ!!」
「あ〜〜、そう言えば。」
「仕方あるまい。あんなに簡単に見つかったのでは、経費も請求できん。」
「ううっ………しかも、依頼人に払ってもらお〜と思って、思いきり食べちゃったわよ………」
「あ………悪です、リナさん。」
「そうは言うけどね、アメリア!結構切実なのよ!?このままじゃ路銀が底をつくわよ!」
「わ、わかりました。もう一度口入れ屋に行きましょう、リナさん!ほらほら、機嫌直して!」
「そうだぞ、リナ。いつまでもくよくよしてると、ハゲるぞ?」
「んな爽やかな顔でおそろし〜こと言わないでっ!!
第一、いつまで撫でてるつもりなのよっ!!そっちの方がハゲるわよっ!!」
「いててててっ!!髪引っ張るなって!オレがハゲる〜!」
「これでカツラ作ったら、もうかるかもね…………」
「!!」
ざあっと青ざめるガウリイ。
だああああっ!!行くぞ、アメリア!!ゼル!!
リナが変なことを言い出す前に、仕事を見つけた方が身のためだっ!!」
がばっ!
リナを小脇に抱え、ダッシュで食堂を出る。
「………まったくだ。」とため息深々のゼルが後に続く。
「その通りです、ガウリイさん!行きましょうっ!」意気揚々とアメリア。
なにすんのよ〜〜〜〜!!!お〜ろ〜〜せ〜〜〜っっ!!」とリナ。

ようやく食堂はまともに食事を食べれる環境に戻ったのである。
 
 
 
 
 
 
 













 
 
 
さて、所変わって、ここは口入れ屋の前である。
いわば現代のハローワークで、仕事を依頼する人と、仕事を探している人との間を受け持つ。

リナ達一行が着いてみると、小さな事務所の前には人だかりがしていた。
「珍しいですね、こんなに混んでるなんて。」
「見たところ、どれも依頼人のようだが。」
「へ〜〜、仕事がたくさんあるならいいじゃないか、な、リナ?」
「そ〜ゆ〜ことは、あたしを降ろしてから言って!!町中で恥ずかし〜のよっ!!」
「あ、忘れてた。」

ガウリイが頭をかき、リナをそっと鋪装された歩道に降ろす。
「ったく。」
マントを払い、身なりをただすリナを、アメリアが振り返った。
目がきらんっと光る。
「ってことはリナさん!じゃあ、町中じゃなかったらいいんですか?」
「!!」
「だって今、町中で恥ずかしいって………はぐうっ!!
「っさ〜〜〜〜〜、とっとと行くわよ!!はいどいて、はいどいて〜!!!」
「うぐうぐ」
アメリアの首に腕を絡ませ、ずるずると引き摺って歩くリナ。
「……………!」
それを見た依頼人達は、恐ろしげに脇に寄って道を空けた。
触らぬ神に祟りなしである。
 


事務所の奥では、使い古されたテーブルについている割腹のいい中年の男性が、忙しそうに書類と羽ペンを振り回していた。
「おっちゃ〜〜んっv盛況みたいね、また仕事ある?」
アメリアをまだ引き摺ったまま、片手を挙げて陽気に挨拶をするリナを見て、主人はぱっと顔をあげた。
「お、おお、いいところに!」
いそいそと立ち上がると、依頼人の列を指さす。
「どうしたわけか、人探しの依頼ばっかり来てるんだ。手が回らないったらありゃしない。
ああ、そういえばあんた、さっきの仕事は片付いたのかね?」
「ええ、そりゃあもうvものの数分で見つけだしてあげたわv」とにっこりリナ。
「依頼料はもらえませんでしたけど………ぐえっ。」
小さな声で呟くアメリアを、さらにぐいっと引き寄せて黙らせる。

「ええっ、ではあなたは凄腕なのですね!」
机の前に陣取っていた若者が目を輝かせた。
「是非、僕の恋人を見つけて下さいっ!!お願いしますっ!今朝から行方不明なんですっ!」
「ああ、私もお願いしますわ!!是非!!愛しいあの人を見つけていただきたいんです!」
「俺も彼女がいなくなっちまったんだ、頼むぜ!」
「ワシもじゃ。ワシの可愛い小鳥ちゃんがゲットロストなんじゃ〜!」
 
わいわい。

途端に、リナ達一行は依頼人の山に囲まれてしまった。
「な、何なのよ、これえっ!」とリナ。
「何か変だぞ、リナ。皆、おんなじ事を言ってないか?」とガウリイ。
『どうか、お願いします!彼(彼女)を!!』
「たく、何がど〜なってるんだ!」とゼルガディス。
「押さないで〜〜!痛いです〜!」とアメリア。
「離してよ、ち、ちょっと、やだ、どこ触って………
ぎゃ〜〜〜!!足にすがるなああ!!!」リナが悲鳴をあげる。
「どこだ、リナ?埋もれちまって見えねーぞ!」
ひときわ背が高いガウリイが辺りを見回すが、リナは依頼人の山にきっちり埋もれていた。
「ここだってば、助けてええええ!」
「どれどれ。この辺か。よいしょっと。」
声を頼りに適当に手をつっこむガウリイ。

ぐいっ!
ガウリイは魚か何かを釣り上げるように、リナの首ねっこを掴んで引っ張りあげた。
再び埋もれないよう、ひょいと両手で頭の上にかかげる。
まるで、そう、果物の籠を頭の上に乗せて運ぶ行商人のごとく。
にぎゃ〜〜!!この方が恥ずかしいわよ〜〜!!」
丸くなってちぢこまるリナ。

「皆さん、落ち着いて下さい、落ち着いて!!」
口入れ屋のおっちゃんが大声で怒鳴る。
「あんた達、とりあえず控え室で待ってておくれ!」と、事務所のさらに奥の小さなドアを指さす。
「何はともあれ、一旦脱出するぞ、皆、ついてこいよっ!」
がっしゅがっしゅ。
雪をかき分けるようにガウリイが進み。
その後をぴったりくっついてゼルガディスとアメリアもなんとか脱出した。

リナはガウリイの頭上で、猫のように丸まったままである。
「ふみぃ〜〜〜っっっ!早く降ろしてよ〜〜〜っっ!!」
 












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