「今を生きてる」


「・・・もう、大丈夫です・・・・」
「目を開けたぞ・・・・」
「良かった・・・・」
 
どこかでぼそぼそと人の声がする。
アメリアとゼルガディスの声だと気がついた。
リナは、再び目を開けた。
 
身体に力が戻っている。
呼吸も楽。
痛みは感じない。
ただひとつ、意識を失う前と同じなのは、ガウリイに拘束されているということ。
「危なかったですね、リナさん。でももう大丈夫です。」
少し疲れた顔のアメリアが見えた。
額の汗をぬぐって、にっこりと笑いかけている。
「そか・・・。リザレクション、かけてくれたんだ・・・」
腕を組んでため息をついてみせるゼル。
「驚いたぞ。ガウリイのダンナが叫んでいるのを聞いて、駆け付けてみればお前は意識がなかったし。」
「へへ・・・」
照れ笑いを返す。
「少し休んでいて下さい。呪文は完璧に作用しましたが、人間の身体は何が起きるかわからないですから。」
例え瀕死の人間にリザレクションを唱えたところで、効かない場合もある。
人間はある種のショックに、過剰に反応することがあるからだ。
アメリアは暗にそれを示していた。
「だ、だあいじょ〜ぶよ・・・」
と言って、リナはガウリイの腕を振り払おうとした。

だがそれはできなかった。

無言のままガウリイの拘束は続いていたからだ。
「ちょ、ちょっとガウリイ・・・!?も、放してよっ」
もがいてみせたが、一向に力を抜いてはくれない。
「ガウリイ?」
「嫌だ。」
「・・・はあ!?」
リナは耳を疑う。
「ガ、ガウリイってばっっ!放してったら!」
「ダメだ。」
「そうダメ・・・ダメえっ!?」
驚くリナを、長い腕を交差させるようにガウリイは抱き締める。
目を見開いたリナの耳に、頭のすぐ上から、くぐもったような声が聞こえた。
「頼む・・・・。しばらく、このままで・・・・」
えええええっ。 
真っ赤になったリナの背後。
アメリアとゼルが足音を忍ばせて立ち去って行った。
 
「ガ・・・ガウリイ・・・・?」
腕を弛めず、何も言わず。
ガウリイはまるで固まってしまったようにリナを抱え込んでいた。
実際はふんわりと抱いているだけなのだが、何故だか息苦しくてリナは身じろぎする。
「も・・・いいでしょ・・・?だ、大丈夫だってば・・・・」
いいかけて、ふと気付く。
絶え間なく、かすかではあるが小刻みに、自分を包んでいる大きな身体が震えていることに。
「今まで・・・・」
ぽつり、とガウリイが言った。
「考えたこと、なかった・・・・。お前が、生きて呼吸することがなくなるなんて・・・」
ぼそり。
「倒れたお前は・・・・・・っ・・・・まるでボロ布みたいで・・・・・・・」
嗚咽?に似たものが言葉を遮る。
「頭の中・・・真っ白で・・・・何もできなかった・・・・」
苦々しげな声が自分を。
責めていた。
もう震えは止まっていたが、腕には力が。
まるで抱えている人間にすがりついているように。
叶うことなら離したくない。
一生この腕の中で守り通したい。
二度と再びあんな思いをしなくて済むように。
子供じみた考えに捕らわれる。
 
リナはとまどっていた。
最後に耳にした、ガウリイの声を思い出して。
あんなにも普段の冷静さを放り出して、気が狂ったように叫ぶのを初めて聞いたから。まるで泣いていたように。
リナは黙り、次にふと思い当たった。
それまで、ガウリイにも弱いところがあるとはあまり考えたことがなかった自分に。
いつでも飄々としていて、滅多に感情を爆発させることはない。
と。
そう思っていたのだが。

・・・ああ。
ガウリイも人間だよね。
強いとこも弱いとこもあるんだよね。
恐いと思うこともあるんだよね。
今回それは、あたしのせいだった。
深く考えると赤面するので、リナはそこで思いを打ち切るが。
ただ、ガウリイも一人の人間であることを思い知らされた気がした。
でも。
・・・でもね。

 
「ガウリイ」思い切って声をかけてみる。
「・・・・・」反応はない。
「ガウリイ・・・、あたしね。」
「・・・・・」
「聞いてったら!あたしはね!・・・そんなに簡単に死んだりしないわよっ!」
「・・・・」
「だから離してっ。」
「・・・・」

「あ〜もう、ガウリイ、このバカクラゲ!しゃんとしなさいよ、しゃんと!」
手を伸ばし、顔をぺちっとはたいてやった。
びっくりして手をゆるめるガウリイ。

「よっく聞いて!あたしはね。結構シブといし、ヤワじゃないし、ああやってリザレクションなんぞもかけてくれる仲間もいるし・・・・そうそう簡単にくたばったりしないわよ。」
「・・・・」
「今回だって、油断してなきゃあんなヤツにやられなかった。・・・まあそれは・・・あたしのせいよね。・・・だから。これだけはいっとく。」
「・・・?」
言いづらい言葉を、ぷいっと横を向いて言うリナ。
「・・・ごめんね。」頬が上気している。
「リナ・・・」
「でもね。あんたも、もちょっとシャキっとしなさいよ?」
何とも言えない顔でこちらを見下ろしているガウリイを、見上げるリナ。
「それでもあたしの自称保護者なのっ?」
「リナ・・・」

ガウリイの気持ちはわかる。
わかると思う。
何故なら、あたしも思ったからだ。
もしガウリイが、目の前で死ぬような目に逢ったとしたら。
自分がどうなるかわかったものではない、と。
でもね。
でも、あたし達。

「ガウリイ。あたし達の旅は・・・いつまで続くと思う?」
唐突なリナの言葉に、ガウリイが一瞬黙り込む。
「・・・・そりゃ・・・・・終るまで、かな・・・・」
「そーね。終るまでね。でも、まだまだ終らないわよね。」
「ああ・・・まあ・・な。」
「あたしは、旅を続けるわよ。どこまでもね。」
「・・・・・」
「ガウリイはどこまで行くの?ガウリイの旅は、どこまで続くの?」
「オレの・・・旅・・・?」
「そーよ。あたしにはあたしの旅があるんだから、ガウリイにはガウリイの旅があるでしょ。一緒に旅をしてても、それはすこ〜し違うと思うの。でもね。・・・でも、ね。ガウリイ。」
「・・・・・?」
「あたし達・・・・一緒に歩いてたよね。今まで。」
「・・・・うん・・・・?」
「この先、どこまで一緒かわかんないけど、さ。一緒にいる以上。あたしは・・・・信じてるの。」
「信じる?」

「あたし達の旅は、どこまでも続いて行くって、ね。」


その時。
遺跡を包んでいた靄が突如として晴れた。
まるで約束されたかのような瞬間。
気がつけばそこは重苦しい死の匂いが立ちこめた場所でなく。
春の日射しに包まれた、見晴らしのいい風の通り抜ける場所だったのだ。
「リナ・・・・」
ガウリイの曇った瞳にも、日射しが差し込む。
古い石畳のそこここから、ほころびでている小さな雑草に当たるのと同じに。

道は遠く。
遥か遥か続いている。
どこまでも行ける気がする。
例え、何があっても。
あたし達の旅は、続いて行くのよ。

「ガウリイ。」
「ん・・・・?」
呆然とリナの顔を見つめていたガウリイに、リナはそっと囁きかける。
「あたし、今、生きてるよね・・・・?」
空と海と同じ瞳を持つ、長い黄金の髪の男は、この日初めて微笑んだ。
「ああ。オレたち、今を生きてるよな・・・・・。」

そして。
あたし達は『今』を重ねて明日を作る。
 
 
 
 
 
 
 

























==================================えんど♪
あう。何が書きたかったかおわかりになりましたか・・・・?(笑)
取り乱したガウリイが見たかっただけなんだ〜〜〜〜〜っ(滝汗)
お許し下せえお代官様〜〜〜〜〜〜〜っっ(平伏)
元ネタはおわかりになりましたか?ロビン・ウィリアムスの『今を生きる』です。
あの映画、すっっごい良いです。ああいう先生、いたらいいのになあ。
映画中にもでてきますが、『カーペ・ディエム』という言葉が出て来ます。これがタイトル通りのラテン語です。『今の機会を捉えよ。』という意味らしいですが。
あと、ネクストのOPにもちょっとひっっかけました(笑・今生きている♪)
でわ長々と読んで下さった方、ありがとうございました♪
そーらより、今は精一杯の愛を込めて♪
またお会いしましょう♪

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