「約束の印」

 
 
「なあ、ガウリイ。お前は何のために剣を学んでいるんだ?」
ぼくは目をぱちくりさせてしまった。
そういえば考えた事が無かった。
兄ちゃんの顔は穏やかだったけど、真剣だった。
「う〜ん。考えた事ないや。ガブリエフ家の人間だからかな?」
「父さんも母さんも俺も、強制的に剣を覚えろとは言ってないぞ」
「えっ?!そうなの?気が付いたら剣の稽古してたから、そうなのかと思ってた」
「ガウリイは剣が嫌いか?」
「ううん、そんな事無いよ。楽しいし」
「何で楽しい?」
「道場には友達も来るし、練習すれば勝てない相手にも勝てるようになるし」
「じゃあ、何で何時まで経っても勝てるようにならないんだ?」
「えっと、それはそのぉ・・・」
そう、僕はあまり試合に勝った事が無い。
腕力が無いからなんて理由にはならない。実際、腕力ある方だし。
「何でだ?」
兄ちゃん結構しつこひ。
「だって、木刀でも当たったら痛いでしょ?」
「はああぁぁぁぁ」
兄ちゃんは大きなため息をついた。
そしてガシガシと僕の頭を撫でる。
「そうだよなあ、お前はとことん優しい奴だったんだよなぁ。でも、それだけじゃあいけない事だってあるんだぞ」
兄ちゃんは手の平の上に顎を乗せて考え出した。
僕って優しいのかなあ。人を傷つけたくないだけなんだけど。
「例えばだ、お前が試合に負けて大怪我をしたとする。母さんと婆ちゃんは悲しむぞ。いいのか?」
「僕が誰かを怪我させたほうが悲しむと思うけど」
兄ちゃんはまた考え出した。
何が言いたいんだろう。
「それじゃあ、お前に宝物があったとする。それは世界に一つしかないもので、お前にとってとても大切な物だ」
「光の剣じゃなくて?」
「光の剣じゃダメだ。あれはお前だけが大切にしている訳じゃないからな」
「う〜〜ん。そんな物ないからわかんないなあ」
「例えばの話だ。話の腰を折るな」
僕はしぶしぶ頷いた。
「それはお前にとってとても大切なんだが、ある日、知らない人がやってきて『我が家の家宝にするからそれを譲ってくれ』と言ってきた。どうする?」
「大切にしてくれるならあげる」
僕は即答した。もともと物には執着が無いほうだ。
「よし、わかった。お前がその宝物を誰にも渡す気が無くなるまで、剣の稽古はナシだ」
「えーーーっ、何でー!例え話じゃなかったの!」
「どうしてもだ。それが分かるまで稽古はナシ!まあ、明日から旅に出るから考える時間はいくらでもあるがな」
「旅って誰が?」
「なんだ、お前まだ聞いてなかったのか?明日からセイルーンに行くんだとよ。さっさと支度して早く寝ろよ」
聞いてないよ・・・。
父さんに話を聞いてみたら、なんと祭り見物に行くという事だった。さっきの兄ちゃんとの話をしてみたら、あれは何年か前に父さんが兄ちゃんに言ったことだと言った。兄ちゃんがどんな答えを出したのか聞いたけど、教えてもらえなかった。その代り、答えは一人一人違うんだって言われた。
 
 
 
 
「いいか、日が暮れるまで自由行動だ。待ち合わせ場所は宿屋。おまえ達には小遣いをやるから好きにしろ。ワシは母さんとデートだ!」
と言うなり、父母は手に手を取って行ってしまった。
 
「まったく、仕方ないなあ。まあ、仲が良いって事はいい事なんだけどな。さてと、俺たちはどこへ行く?ガウリイ」
「う〜ん、・・・別にどこでもいい」
兄ちゃんの質問攻めに合ってから1週間後、僕たちはセイルーンに来ていた。
よっぽど大きいお祭りなのか、いろんな国から沢山の人たちが来ていて、セイルーンは人であふれ返っていた。何とかって言うドラゴンの神様のお祭りみたいだけど、何で祭ってるのか分かんない。
7年に一度しかやらないらしいと説明されたような気もするけど、僕はそれどころじゃなかった。

まだ、答えが見つからない。旅の道すがらずーっと考えてたけど、どうしてあげちゃいけないのかわかんない。あげない事はできるけどそれってただの意地悪じゃないの?
僕たちは露店が並んでいる通りへ入っていった。人が多くて兄ちゃんの後をついて行くのがやっとだ。そうそう、婆ちゃんにお土産買わなくちゃ。
「ねえ、兄ちゃん。婆ちゃんのお土産何がいいかなあ」
僕は一生懸命兄ちゃんの後ろを歩きながら聞いた。
「さあな。でもお前が考えて買ってきた物なら何でも喜ぶと思うぞ」
兄ちゃんはそう言うと僕の頭をガシガシと撫でた。考える事が増えた。
 
 
 
 
「いい、リナ。赤い風船買ってあげるから、絶対になくすんじゃないわよ」
「うん!」
姉は妹に風船を買ってやった。
「珍しいわね、ルナがリナに物を買ってやるなんて」
「あら、違うわよ。これを持っていればリナが迷子になっても私が見つけ易いでしょ」
そう言って姉は妹に風船を持たせた。
小さな妹が持っても大人の背丈を越えるほどヒモが長い。一応、ヒモの端には緑色の厚紙が通してあって、手からすり抜けないように工夫はしてある。
リナは腕を上げ下げすると風船が浮き沈みすることを発見したようだ。しきりに腕を振って喜んでいる。
「ねえちゃんありがと」
リナはルナに礼を言うことを忘れていなかった。
礼儀はすでにルナから叩き込まれていたのだ。痛い思い出と一緒に。
「よろしい」
ルナはリナの空いている左手を取ると、父母の後を歩き出した。
 
 
 
 
「兄ちゃん!」
「ん?どうした」
僕は一生懸命兄ちゃんに追いつこうとしていた。
「おい、どこだ。ガウリイ」
「・・・こ・ここだよ・・・」
ようやく兄ちゃんの所にたどり着いた時には、髪はボサボサ、洋服はクシャクシャと、いい具合にモミクチャになっている。考え事をしながら歩くのは良くないなあ。
兄ちゃんはというと、ここ1、2年でやたらと伸びた身長のおかげで無事である。
僕は小さい。どのくらいかというと、大人の人の腰の高さくらい。同じ年の子供の中でもかなり小さい方。
「悪い悪い。兄ちゃん歩くの速かったな」
そう言って僕のボサボサの頭をぐちゃっと撫でた。
「あのさ、僕もう婆ちゃんのお土産も買ったし、先に宿に戻るよ。何か疲れちゃった」
まだ答えも出してないし。
「そうか、じゃあ一緒に戻ろうか」
「いいよ、一人で戻れる。折角だからもっと見てくれば?」
「そっか?本当に一人で戻れるのか?迷子にならないか?」
「大丈夫だって。僕だっていつまでも子供じゃないんだから」
僕は少しだけ頬っぺたを膨らませた。
「わかったわかった悪かった。そうだよな、お前だっていつまでも子供じゃないもんな。よし、じゃあ、気をつけて戻れよ」
「うん、じゃあね」
「変な大人に付いて行ったりするんじゃないぞ」
「わかってるよっっ」
ほんとにもう!何時までも子供扱いするんだから。
 
 
 
 
ルナは宝石屋の前で立ち止まった。
妹のリナがその場所から動かなくなったからである。
宝石、と言ってもほとんどは原石の小さく砕けたものを扱っている。
値段もかなり手頃で、祭の縁日で売るにはうってつけだ。
リナはどうやら石の輝きに魅せられたらしい。
キラキラと輝いた目が台の上の石を満遍なく見つめている。
「ふ〜ん」
ルナは妹を観察することにした。
この妹が沢山ある石の中からどれを選ぶのか興味が出てきたから。無論買ってやるつもりなどまったくない。
リナの目は、ある石にくぎ付けになった。
欲しいとも買ってくれとも一言も言わない。
ただじっと見つめている。
「どうしたの?」
「ねえちゃん、あれ」
そう言って、風船を掴んでいる右手の人差し指をひとつの石に向けた。
その石は比較的大きな原石で純度も高そうだった。
流石は我が妹と思っていると店の親父が声を掛けてきた。
「へー、お嬢ちゃん小さいのにお目が高いね。しかも姉妹そろって別嬪さんだ。
よし、おじさんがひとつサービスしてやろう。流石にその石はあげられないけどな」
そう言うと台の下でもぞもぞと何かを取り出そうとしだした。
「あの、困ります。私お金持ってませんので」
こんな所で子供をダシに売りつけられたらたまったもんじゃない。ルナはやんわりと断りを入れた。
「いやいや、心配しなくても大丈夫。石を掘り出すときにどうしても細かい欠片が出ちゃうからね、そういう売れない物を集めといて、未来のユーザーさんにプレゼントしているんだ。お、あったあったこれだ。さあ、お嬢ちゃん手を出しな」
リナはチラッと姉の顔を見た。
まあこの位はいいかと思いルナも小さくうなずく。
リナの顔がぱあっと輝いた。恐る恐る右手の平を出す。
「あ」
風船が飛んで行った。ルナは諦め顔でそれを見やる。
リナは気付いていない。
リナの右手の平には岩石の上に薄くへばりついたあの石が乗っかっていた。
大きな目をさらに見開き、じっと見つめた後。
「おじさんありがと」
と言って大事そうにポケットに仕舞い込み、ふと何かに気が付いた。
絶対になくしちゃ駄目だと言われた物がない。
しかも姉ちゃんに買って貰ったものだ。
ガバッと空を見上げた。
赤い物が浮かんでいる。
風に煽られながら方向を変えていくそれは、徐々に高度を上げていた。
リナはサァッと顔色を変え姉の手を振り解くと、風船の後を追い始めた。
「あ、ちょっと、リナ、待ちなさい!」
ルナはすぐに追いかけようとしたが、人が邪魔で前に進むことも出来ない。
リナはというと、大人の足元をスルスルと潜り抜けあっと言う間に見えなくなってしまった。
「これじゃあ風船買ってやった意味がないじゃない」
本末転倒とはこの事だ。
 
 
 
 
(とりあえず、この人ごみから抜け出そう)
僕はそう思った。
けれど人はどこからともなく湧いてきて、視界を塞いでいく。
僕は通れるところをぐにゃぐにゃと進み、あっという間に現在地が判らなくなってしまった。
(言われたそばから迷子だよ)
情けない、そう思い空を見上げると、意外と近くに大きな木が立っているのが見えた。
きっとあの木に登れば、町中を見渡すことができる。帰り道が分かるかもしれない。
僕は木を見失わないように一生懸命歩いた。
 
 
木は近づくにつれ、どんどん大きくなっていった。
(サイラーグの樹くらいあるのかなあ)
僕は話にだけ聞いたことがあるサイラーグのフラグーンに思いを馳せた。
うちの先祖が魔獣ザナッファーを倒した後に立っている樹。その話は伝説の様にも昔話の様にも語られているけど、僕の家には魔獣を倒したという剣『光の剣』がある。僕の家は代々『光の剣』を守っている。今度『光の剣』を継ぐのは僕の兄ちゃんだ。大きくて、強くて、優しくて、大好きな兄ちゃん。兄ちゃんはあの質問にどう答えたんだろう。剣を学ぶ理由かあ。
おっと、今はそんな事よりこの迷子状態を何とかするのが先だった。
よし、木に登ろう。
大きい木だけど木の下の方まで枝が出てるから結構登りやすい。町を見渡すくらいまでだったら簡単に行けそうだ。それに木登りは得意だし。
 
ガサガサガサ
 
?何の音だろう。と思って上を見上げると葉っぱがハラハラ落ちてきて、え゛?
「ふんぎゃぁぁ〜〜〜!」
「えっ、えぇぇぇぇ―――!」
ぶきゅっ。
女の子のお尻が顔面ヒットした。
 
 
「いってぇ〜〜」
「ふえぇぇ〜〜〜〜〜〜ん」
「え、あ、を、う、ど、どおしよお」
女の子のお尻が落ちてきた時、思わず僕は木から手を離して女の子を抱きとめた。そして落下。幹から手を離したんだから当たり前だけど・・・。でも自分でも感心な事に、落ちても女の子を離さなかった。
(婆ちゃんが女の子は大事にしなさいって言ってたもんなあ)
まず女の子を起こして座らせた。よく見ると僕が思っていたよりもずっと小さくて、まだ2歳か3歳くらい。木から落ちてどこか打ったんだろう、いきなり泣き出してしまった。何とか泣き止ませたいけど、小さい子の扱いなんて、しかも女の子の扱いなんてどうしたらいいのかさっぱりわからない。

とりあえず、
「大丈夫?怪我しなかった?」
と聞いてみた。無傷なわけないじゃないかあ!
「ちょっとなの」
「? 何がちょっとなの?」
「うんとね、えっとね、あれ」
あっさり泣き止んだ女の子は、ビシッと木の上を指差した。
女の子の指の先を見ると、ずっと上の方に赤い風船が引っかかっているのが見えた。しかも上の方なんて生易しいもんじゃない。この大木の天辺近くの枝の下にぶつかっている。ヒモが絡んでいる様には見えないし・・・。待てよ、ちょっとって、何を指して言っているんだ?
僕は女の子をまじまじと見つめた。
桜色のぷくぷくのほっぺに小さくて赤い唇、肩より少しだけ長い栗色の柔らかそうな髪、赤いワンピースの上に白いエプロンのようなスモック、印象的な紅の瞳。
その瞳が再び木へと向けられた。
そのまますたたたたっと走り出し、ガシッと幹にしがみつくとまた登り始めた。
「あーっっ ちょっと待った!」
僕は慌てて女の子を木から剥がした。
さっきは僕がクッション代わりになったからいいけど、あんな高さから落ちたら絶対にタダでは済まない。
「いんやぁ、はなしてぇ。ねえちゃんのおしおきイヤー」
女の子はびっくりするような勢いでジタバタしだした。
んと、風船が大事なのかな?それともお仕置きが怖いのかな?
暢気に考えてると女の子の暴れ方が激しくなってきた。
「あー、分かったよ。僕が取ってくるからちびちゃんはここで待ってて。あんな高い所から落ちたら大変だろ」
「ちびじゃないもん!リナだもん!」
紅い目が自己主張する。
「ごめんリナ。お兄ちゃんが取ってくるからリナはここで待ってるんだ。お兄ちゃんの言うこと分かるだろ?」
「うん!・・・・・・でも、おにいちゃんもおっこったらあぶないよ」
リナは上目遣いで僕の事を心配してくれた。
「大丈夫だよ。僕、木登り得意なんだ」
初めは町を見渡せるところまで登れればいいと思っていたけど、天辺までだって絶対に行ける。
「じゃあ行って来る。知らない大人について行ったらダメだぞ」
僕は兄ちゃんの真似をしてリナの頭をガシガシと撫でた。
「うん。リナ、ちゃんとまってる」
 
 
(あともうちょっとお)
一生懸命手を伸ばして少し先の枝を掴んだ。
「ふぅ」
木に登りだして大分たった。最初のうちは登りやすかったけど、さすがに上の方に行くに従って枝はどんどん細くなって足場も不安定になってきた。それにこんな大木に登ったことなんかなかったから腕も痺れてすごく疲れてきた。何とか休める場所を、と思い、今やっと少し太めの枝を見つける事ができた。
「おにいちゃん、ばんがれぇ〜!」
下からリナの声が聞こえた。
まだちゃんと喋れていない言葉をきくと、少しだけ可笑しかった。でも一生懸命応援してくれる。
風船まであと少しだ。
「よし、頑張るぞ」
僕は再び木の幹にしがみついた。
 
 
あれからほどなくして風船が引っかかっている下の枝にたどり着いた。
枝はかなり細い。僕は小さくて体重が軽いことを感謝しながら慎重に風船に近づいたが、これ以上は進めそうにない。
(あと少しなのに)
ぼくは短い腕をさらに伸ばして風船のヒモを掴もうとした。
枝がミシミシと揺れる。
「おにいちゃん、きょーつけてー」
またリナの声が聞こえた。
(小さいのに難しい言葉知ってるなあ)
感心したそのとき、グラッと体が傾いだ。
「やばっ!」
ええい、ちくしょー!とばかりに体を前に伸ばし風船のヒモを掴んだ。そのまま足で枝を挟み込んで、左右の足を絡ませ逆さ吊りの格好になる。
「セーフ、っておわぁ」
墜落せずに済んだと思った瞬間、逆さ吊りの反動で枝が折れた。
半分パニックになったけど、どこかにすごく冷静な自分がいてどうすれば助かるのかが分かった。左手で真下の枝を掴み、振り子の原理でその下の方にあった枝に着地。折れた枝は着地寸前に離していた。
(そうだ、風船!)
残念ながら風船は見事に割れてしまっていた。
 
 
地上へとたどり着くと、リナがまた泣いていた。
「リナごめん。風船割れちゃった」
僕は情けない気持ち一杯で割れた風船をリナに見せた。
リナはぶんぶんと首を振って僕にしがみつき、今度は大声で泣き出した。
「お、おい。そんなに大声で泣くなよ。僕が泣かせたみたいじゃないかって、そうか、約束守れなかったもんな」
リナはまたぶんぶんと首を振って僕を見上げた。その瞳には見る間に涙が溜まっていく。
僕はしゃがんでリナと視線を合わせた。
「じゃあ、どうして泣くの?」
叱るようにではなく、諭すようにでもなく。
僕は純粋にリナの涙の訳が知りたかった。
「だってぇ、ひっく。バキッて、ひっく。おっこっちゃって、ひっく。しんじゃうって、ひっく、ひっく。おっこぁかったんだもん。ぅああああああ〜〜ん」
びっくりした。風船が割れて泣いてるんじゃないんだ。それどころか僕はこんなにピンピンしてるのに、木から落ちたことをまるで自分の事のように思って恐くて泣いている。他人を思いやれる優しい子なんだ。
僕は小さなリナが急にいとおしくなって抱きしめた。
「ありがとう、心配してくれて。でも僕は大丈夫だよ」
「ほんとに?いっこもいたくない?」
「うん、いっこも痛くない。・・・・・・ごめんね」
「なんでごめんいうの?」
「それはね、僕がリナを泣かせちゃったから。僕が木から落ちなかったら、リナは泣かなかっただろ?」
リナが頷いた。
「だからリナを泣かせちゃったのは僕のせい。僕、もっと強くなるよ。リナが泣かなくても済むくらいに。だからもう泣かないで、ね」
「うん、なかない。あのね、おにいちゃんやさしーからつおくなれりゅよ」
「なんで?」
「ねえちゃんがいってた。つおいのはまもりゅのがあうからなんだって。まもりゅってたいしぇちゅのことなんだって。たいしぇちゅってやさしくしゅりゅのことでしょ?」
「・・・う、うん。でもどうして僕が優しいの?」
「ふーせんとってくれたから!」
たったそれだけの事。優しさの価値なんて人それぞれ違うんだ。優くしてあげるってどういう事なのかイマイチよく分かんなかったけど、僕一人が決めることでもなかったんだ。
僕は小さい頃の事を思い出した。木登りが得意になった理由。
いつも近所の野良犬に追いかけられて、木に登るしか逃げ道がなくて、木の上で泣いていたら兄ちゃんが追っ払ってくれた。
そうだ。僕は兄ちゃんが優しくて強いって思ったんだ。どうしてあの頃から兄ちゃんは強かったんだろう。僕を守るため?
 
  『お前はとことん優しい奴だったんだよなぁ。でも、それだけじゃあいけない事だってあるんだぞ』
 
兄ちゃんの言葉を思い出した。そっか、そういうことか。
守る・強い・優しい、みんなで一つ。大切なものを守る手段のひとつが剣なんだ。
僕は急に可笑しくなって肩を震わせて笑い出した。
「む〜〜〜〜、おかしくないもん」
「ああ、ごめんごめん、違うんだ。ありがとうリナ。僕、リナから本当に大切なことを教えてもらったんだ。お礼がしたいくらいだよ」
「ああっ、おれい!
リナは身を硬くてさっと辺りを伺うと、ふぅーとため息を一つついて僕に向き直った。
「おにいちゃん、ふーせんとってくれてありがと。おれいがおそかったってねえちゃんにはいわないでね」
「どういたしまして。こちらこそ大切なことを教えてくれて、どうもありがとう。これからもっと修行して強くなるって約束するよ。今度リナに会ったときに恥ずかしくないように頑張るよ」
「うん。じゃあ、おにいちゃんがつおくなったら、リナ、おにいちゃんとケッコンしてあげりゅ!」
え゛? あの、ケッコンの意味知ってる?
僕がちょこっと固まっていると、リナは何やらポケットの中をごそごそさせていた。
「はい、これ」
僕に手渡されたのは小さなただの石。ひっくり返してみると、白く半透明の薄い石が所々で青っぽい光を反射させていた。
「なに、これ?」
「んとね、ケッコンのやくしょくしたら、しりゅしにほーせきあげりゅんだって。かあちゃんが言ってた」
「これ宝石なの?」
「わかんない。でもリナのたからもの」
(約束の印。これって絶対に強くなれって事?)
「ありがとう。これはこんどリナにあうときまであずかっておくよ」
 
 
 
 
その後、僕たちはリナの親を探そうと人ごみの中に戻っていったが、リナの「とうもころし食べたい」で完全に迷子になってしまった。リナはさっさと歩き疲れて僕の背中で爆睡。やっとの思いでたどり着いた宿で、女将さんにリナが迷子であることを告げ、待合室のソファに座った途端、僕もリナの横で眠ってしまった。
気が付いたら次の日の朝。当然リナは側に居なかった。
兄ちゃんの話によると、捜索願いが出ていたらしく、すぐに親が迎えに来たらしい。<
 
 
「で、ガウリイ。何か急に逞しくなった気がするんだが、昨日は何があったんだ?」
昨日の事。今思えば夢だったんじゃないかと思うような出来事。僕はそっとポケットに手を入れた。
あった、約束の印。
「ひ・み・つ・だ・よ。ねえ、それより答えが出たんだ。今度剣の稽古付けてよ。俺、兄ちゃんみたいになるって決めたんだ!」
 
 
 







 
おわり
 
 
*-*-*-*-*おまけ*-*-*-*-*
 
「という訳でね、あたし、すごく小さい頃に一度この祭りに来てたみたいなのよ」
リナとガウリイはセイルーンに来ていた。アメリアから7年に一度しか行われない祭りの巫女やるので是非見に来て欲しいと手紙があったからだ。まあ、祭りと聞いてリナが行かない訳がないのだろうが。
「でね、その時に渡した石ってのが、ムーンストーンの原石なんだって。宝石言葉知ってる?ってガウリイに聞いても無駄か。“愛の予感”あたしってばなかなかやるでしょ?」
リナはフランクフルトをかじりながら、姉に聞いたという小さい頃の話をしていた。『7年に一度の祭り』という事で思い出したらしいが、当人に記憶が無いものだから、まるで他人事のように滑らかに話している。
ガウリイは焼きイカを咥えたまま、何かを一生懸命考えていた。思い当たる節を探しているのか、右手を胸に当てている。
「なあ、リナ。それってこの石の事じゃないか?」
「へ?」
ガウリイは服の中に入れてあるペンダントのヘッドを取り出した。
そこにはリナが話していた通りの特徴のある石が下がっていた。
「いやぁ、今思い出したんだが、俺も昔この祭りに来ててさ、小さな女の子にプロポーズされたんだ。それでこれが約束の印なんだけど。そっかぁ、リナだったのか。目の色とか髪の色とが似てるなあとは思ったんだがって、おい、どうした?ハラでも壊したか?」
リナは急に立ち止まり、俯いて震えていた。もちろん手は硬く握られている。
「こんのぉ、ボケなすクラゲがあぁぁぁっっ!」
 
ベシシシッ!
 
リナのスリッパが炸裂した。リナの顔は・・・赤い。
「痛いなあ、何するんだよ」
「問答無用!乙女の純心を踏みにじった罪は万死に値するっ!」
「ちょっと待て、俺、怒るようなこと言ったか?」
「うるっさーいっ、ディぃぃル・ブランドぉっ!」
「ひょ〜あ〜え〜〜〜〜」
今日もガウリイはお空のお星様になりました。
 
 
ガウリイが空の彼方へと消えた後も、リナは俯いたままゼィゼィと肩で息をしていた。
(そうだった。あたし、小さい頃ずーーーっと風船のお兄ちゃんと結婚するって言いまくってたんだ・・・・・・)
ボンッとまた更に赤くなり、へなへなと地面に座り込む。
(ああ、もうだめ。帰って寝る)
リナはふらふらと立ち上がると、宿へと向かった。
今のリナにとって、宿への道のりは遠かった。
 
 
 
 
 
 







 
 
おしまい。
 
おまけ・リナの幼稚言葉
・ばんがれ・・・・・・・・がんばれ
・おっこぁい・・・・・・おっかない+こわい
・とうもころし・・・・とうもろこし
 
〜〜〜あとがき〜〜〜
初めまして、香月 十夜(かつき とおや)と申します。
こんな拙い文章を書いて申し訳ないです。
初めてスレイヤーズ書きました。
なんだか完全にガウリイのお話になってしまったような気がします。
私はただリナに風船を取ってあげたかっただけなんです。(割っちゃいましたが)
本当はドタバタが書くつもりでしたが、気がついたらこんなんなってました。
ご意見、ご感想、渇などありましたら是非お聞かせください。
 
ミィ様、こんな風になってしまいましたが如何ですか?
 
 
 
 
 


 
 
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