リトノウコ様


10分、てとこかな。
 食堂のイスに腰を下ろしつぶやく。

「ご注文はいかがされます?」
 メニューを片手に近づいてきたこの宿屋の娘・・・いや、結婚してるのだから若おかみと言った方がいいのか。たしか、クラリスと言う名だったはず、と思いながら視線はごく自然に腹におりてしまった。
言われてみれば、すこーーーーし、そこだけが張り出してきてるような気がしないでもないようなないようなないような・・・・・・・・最近、リナにしか興味がないもんだから、気付かなかった。
「いや、連れが来てからに。えっと―――何ヶ月ですか?」
 俺の質問に、幸せそうにぱっと頬をピンクに染めた様はまだ少女と言っていいようなあどけなさと愛されているという自信を同時に覗かせる。
「6ヶ月です」
「へ・・・・・。そんなふうには全然・・・」
 じっと、腹をみる俺に、クラリスはくすくすと笑った。
「男の人ってそうみたいですね。赤ちゃんが出来たみたい、って言った時はすごく喜んでくれたのに、不思議そうな目でお腹を眺めるんですよ。ほんとにいるのか?人の子がこんな中にいるのか?全然腹でてこないじゃないか?って。・・・・・・・でも、いるんですよ。触ってみます?」
 がたりっ。
 
 イスのずれた音。思わず俺はびびって後ろに下がっていた。
 いや、なんつーか、妊婦って神聖で繊細で、変に触ると壊れそうで怖いじゃないかぁぁあっ。誰にともなく、心のなかで必死に言い訳している俺を、クスクスと笑いながら残し、クラリスは母親に呼ばれて奥へ姿を消した。

 6ヶ月なのに、腹に赤ちゃんいんのに、働くんだな・・・・・・。
 思ってはみるが、やはり他人事というか、妊娠とかそーいうのは現実的な意味をもって理解できず、ぼんやりと眺めた。そんな俺の横をリナがトコトコと横切っていった。
「おい、リナ。ここここ」
「クラリス、今いい?頼まれたの、出来たんだけど」
 まだ微妙なところで昼というには早いせいか、一人しか客のいない食堂でどうやれば見逃せるのか、素通りしていったリナを呼び止めた俺にリナはべーっと舌をだして見せた。
 なる、あの小さくってピラピラしてたのを仕上げてた訳か。
 からかわれて真っ赤になってしまった頬の色が元に戻るのに掛かると予測を立てた10分。それをとうに過ぎても降りてこなかったのはそういう訳だったかと納得。
 呼び出されてクラリスが、きゃあと跳ねた。
 あぶないって・・・。
「可愛い〜。すごく素敵」
 きゅうと、ピラピラしたそれを抱きしめる。
 リナがそのクラリスの喜びように笑顔をうかべ何事かを耳元に囁けば、それがくすぐったかったのかクラリスは首を竦め、くすくすと笑いまた、男の俺に聞かれては一大事とばかりにチラリと目配せをしながらリナの耳元に囁きかえした。
 カウンターを挟んで仲良くさえずってる様をぼけらっと見ている自分に気付きなんとなく照れくさい。でも、それにしてもいい加減腹が減ってきたな、と思ったころにやはりそう思ったらしい客が食堂の入り口をくぐって現れた。

「あ」
 リナが、その男のそばにそれこそぴょんぴょんと嬉しげに跳ねるようにして駆け寄る。
「おっかえり〜。遅かったね、待ってたのよ」
 な、なんだぁ、その台詞わあっ!!?
 思わず立ち上がりかけた俺の目の前で、リナはその男の手をそおっと握った。
 ちょおっと待て。
 訳がわからないなりにその展開に俺の頭はすでに泥パック・・・・・・じゃなくて、パニック状態だ。(←似た者どーし(笑))
 リナは、その男の手を優しく包みこんだままにっこり、今までのそう短くない付合いの中でもなかなかに見せてくれやしない極上の笑顔をその男に向けて。
 そうして言ったのだ。

「リトノウコ様リトノウコ様、どうか、子供をお授け下さい!元気な子供をたっくさん」

 ガコンっ。
 立ち上がった拍子に座ってた椅子がおもいっきし派手な音をたてて後ろに転がっていった。
「リナっ!!」
 ズンズンと駆け寄った俺に肩を引っ張られ、リナが驚いたように目を剥く。
「なによっ?」
「なによ、って、おまぇ・・・・・・・・・」
 
 情けねぇ。声が震える。
 震える俺の存在を無視するかのごとく、その男はリナの髪にふれた。
 遠慮のないごく自然な動作にカッとなる。

「ありがと、リナちゃん。―――元気な子をたくさん産んでくれ」
 なっ!!?
 リナちゃん、だあっ!??たっくさん、ガキを産めだとおぉっ!!?
「な、クラリス」
 なぁにが、クラリスだっ!!・・・・・・・・・・・・・クラ、リ・・・・・・ス・・・・・・・・・・・・・・・クラリ、ス・・・・・・・・・・・・・クラリスぅぅっ!!?
 
 引っ張り寄せたままのリナを見下ろす。
「・・・・・・・・・・・・・・・・なぁに?昨日、この宿に泊まるって決めたとき、若夫婦だっておかみさんに紹介されたでしょ?クラリスの旦那さまの、オスカーじゃない」
 おぃぃぃぃぃいいいいいっ!!?
「自分たちの子供で野球のリトルリーグ作るのが夢なんですって。―――聞えてる??」

 俺が将来、ハゲたら絶ぇぇぇっ対、リナのせいだ。
 くすくすと笑うリナに、どーーーーりで降りてくるまでに時間がかかったもんだと再度納得。こおいう、仕返しを考えてやがった訳かよ。
 そーかよ、そーかよ。

「リナ」
 がっしと、リナの手を握り締める。
「俺の夢は、将来自分たちの子供達だけで、サッカーのリトルリーグを作ることなんだ!協力してくれるよなリナ、がんばろーぜ、おぅっ」
 
リナが俺の腕の中で硬直した。
 
 






















=======おわっとけ(笑)========
野球(9人)より人数の多い、サッカー(11人)と言うあたりがそれでもガウさんなりの意地なのか?(笑)(※以上、コメントはご本人でした・笑)

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