「You are not alone」2ページ目♪


 −・・・・・・俺にどうしろと言うんだ?
 街外れにある宿屋の一室でゼルガディスは古い寝台に身を任せ、ぼんやりと考える。
 己の体を見て、自嘲に笑みを洩らす。
 −・・・お笑いだ・・・・・・。
  ・・・・・・愚かだったのは自分・・・。
  ただ・・・・・・強くなりたかった・・・。
 ふう。小さな溜め息を一つ。
 −みんな、俺にどうしろってゆうんだ?
  ・・・あいつに・・・・・・
  ・・・あいつの気持ちに、答えろ、と?
 手で顔を覆う。世界の全てから・・・身を隠す様に・・・。
 −・・・初めて会った時には・・・また変な奴に出会っちまった、って思った。
  面倒ばかりかけてって・・・なのに
  ・・・なのに、今じゃその仕種が可愛くて・・・・・・。
  ・・・・・・俺が、守ってやりたい、と思った・・・。
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何、考えて
  るんだ?・・・俺・・・。
 結局、否定をしたところでアメリアを想う自分がいることにゼルガディスは苛立ちと不安を覚えた。
 それは・・・まるで自分が自分だけのものではなくなってしまう様な恐怖。
 
 
「アメリア、お誕生日おめでとう!!」
 リナは朝、アメリアと顔をあわせて一番にそれを言った。
「ありがとう!!」
 ゼルガディスがパーティーに来ると言ってからアメリアはいつも以上に元気が良かった。
「・・・そう言えばアメリア、どうしてあんた初めからゼルに招待状を送らなかったの?」
 −(ぎくう!)
「そ、それは・・・・・・」
 −い、言えない!・・・妖精物語のように、そんなものがなくても来てくれると信じてたなんて・・・恥ず
  かしくて言える訳がないっ!!
「・・・ほら、ゼルガディスさんって何処にいるかわかんないし・・・・・・。」
 慌てながら言うアメリア。
「ふ〜ん、あたし達もそれは同じだと思うけどねえ。」
 リナが意地悪く言う。
 アメリアが困り果てていたその時
「どうかしたのかあ?」
 の〜んびりとしたガウリイの声。
「あんたねえ、どうしてこういう時に現れるのよ!!」
 リナがガウリイの襟首を掴んで揺さぶる。
「く、苦しい・・・」
「あ!!それじゃあ、わたしは準備があるから!!!」
 アメリアは慌てた様子で逃げ出した。
「お〜、行っちまったなあ。」
「誰のせいだと思ってるのよ!!」
「・・・・・・・・・・・・リナから逃げたんじゃあ?」
 
べきしっ!!!
 
 リナは容赦なくガウリイを殴り付けた。
 
 
「さすがねえ。」
 リナは感嘆の声を上げた。
「おお!!食いモンが一杯あるぞ!!!」
 ガウリイも感嘆の声を上げる。
 アメリアは、というと先程からあたりを見回している。
 −ゼルガディスさん、来てるかな?
 三人の周りには何故か空間が出来ていた。
 理由は至極、簡単。三人には人を寄せつけない空気と、それにアメリアとリナは二人とも美しかったしガウリイは格好良かったからだ。
 アメリアは古い、彼女の祖母のドレスに身を包んでいた。それは襟が詰まった紫色のドレスで裾はフレアに出来ていた。頭には紫色のバラで出来た花冠。まるで妖精物語に出てくるお姫様さながらの可愛らしさだ。求婚者達は遠巻きに彼女の美しさを誉め称えた。
 リナは瞳の色と同じ深紅のドレスを着ていた。襟が大きく開いているがけっして下品な印象などしなくてむしろ高潔な印象を他に与えた。華奢な肢体が浮き出て男達の視線を集めている。
 ガウリイは黒のスーツを着ていた。彼は先程から無関心を装いながらもリナに群がる視線を気にしていた。
「アメリア様、お誕生日おめでとうございます。」
 怯む事なく三人に近付いたのは・・・シルフィールだった。彼女は白の清楚なドレスを着ている。
 そして、もう一人、人の輪の中から若者が一人歩みでた。
 女の子が夢見る王子様さながらの容姿をした若者・・・・・・しかし、アメリアが望む人とは違う人物。
「ごきげんよう。わたしの名はジェームスと申します。・・・おめでとうございます、アメリア殿。」
 彼はそう言うと優美な仕種でアメリアの手を取った。そしてその甲にキスをする。
 
 
 アメリアは何故かジェームスと一緒にいた。まあ、これはある意味男除けになるのだが・・・・・・。
 −・・・・・・リナの薄情者っ!!!
 リナはガウリイと一緒に食べ物がある所にいた。色気より食い気とは正にこの事である。
 シルフィールは、というと彼女の叔父さんの紹介で他の男性と踊っている。
 −ゼルガディスさん、遅いな・・・・・・。
 もう、来ないのではないか、と不安になる。
 アメリアは小さく溜め息をついた。
「・・・どうかしましたか?」
 ジェームスがその溜め息を聞き漏らさずに訊ねた。
「あ、なんでもないです。」
 そう、上の空でアメリアは返した。心にあるのはゼルガディスのことのみ。アメリアは自分達が庭に出ている事すら気付かなかった。
 −え!?
 突然ジェームスがアメリアを抱きしめた。
「無礼なことは承知です!!それでも・・・あなたを一目見てあなたに恋してしまった・・・。」
 そうアメリアに囁きかける。
「・・・姿を見るまで・・・・・・あなたのことは僕には関係ない事だと思っていました・・・。」
 あくまで真摯な告白。
 アメリアは困った。もしもこれが下心一杯の振る舞いならば殴ってでも振払ったが・・・あまりにも真剣な言葉だった。今までの求婚者とは違って・・・どこまでもその声は真実に溢れていた。
 ・・・・・・心が揺らがなかったと言えば嘘になる。アメリアだって女だ。こう言われて嬉しくないはずがない。しかし・・・・・・・・・アメリアはその時見たのだ。彼女が待ち望んでいた者の姿を。彼は木立の間からこちらを見ていた。瞳に宿るのは・・・悲しみと怒りの色。
「・・・・・・・・・ゼルガディスさん・・・」
 アメリアは呟いた。誰一人として代わる事が出来ない大切な人物の名を。
 それを聞いて、ジェームスはアメリアの体を離した。
「・・・え・・・?」
 戸惑いの表情。彼からはゼルガディスの姿は見えない。
 アメリアの視線を辿って振向く・・・・・・そこには男がいた。白のスーツに身を包みながら何故か頭に布を目深まで被った男が・・・・・・。
 ゼルガディスはゆっくりと歩を進める。アメリアに向かって。
「・・・・・・君の・・・好きな人?」
 ジェームスの質問にアメリアは首を縦に振った。
「ええ。」
「・・・僕の、負け、ってことか・・・。」
 彼は自分自身に向かって呟いた。
 アメリアのゼルガディスを見る熱い瞳・・・彼に向ける笑顔・・・それに勝てるものなどいないだろう。
 ジェームスは今一度アメリアの手を取った。もう、ゼルガディスはすぐそこまで来ている。ジェームスは素早く彼女の手に口付けると
「さようなら。姫君。」
「・・・ありがとう、ジェームスさん。」
 彼女はこの時、初めてジェームスの瞳を見た。そして微笑んだ。
 ジェームスは潔くその場を去って行った。
「・・・・・・ゼルガディスさん・・・。」
 遠慮がちに手を差し伸べる。
「・・・誕生日、だったな。・・・・・・おめでとう。」
 ぶっきらぼうに言うと、これまた優しいとは言い難い仕種でアメリアの手を取った。その甲に口付ける、なんて真似が出来るハズもない。しかし、彼はポケットから何かを取り出すとアメリアの掌に載せそれを素早く指で覆い隠させる。
「?」
「・・・・・・プレゼントだ・・・」
 ゆっくりと拳を開く。
「!」
 そこにはアンティークっぽい細工を施した銀の指輪・・・。
「・・・これ・・・」
「・・・俺には女の欲しいものなんか判らないからな!!」
 いつも以上に口調が厳しくなるのは照れている為だろう。
「・・・・・・嬉しい。」
 アメリアは指輪を握り締める。まさか、このような物をゼルガディスから貰えるとは思わなかった。
「・・・・・・さっき・・・・・・」
 ゼルガディスが言葉を慎重に選びながらゆっくりと言葉を紡ぐ。
「お前が・・・他の男に・・・抱き締められてるのを見て・・・ショックだった。」
「・・・え?」
 思わぬ言葉にアメリアは顔を赤らめた。
「・・・俺は・・・自分に対して・・・腹が立った。・・・何やってるんだ、って。」
 ゼルガディスはゆっくりと手を伸ばした。そしてアメリアを抱き寄せた。
「・・・・・・ゼルガディスさん・・・?」
「俺は・・・・・・ずっと・・・一人で生きて行くんだと・・・そう、決めてた。・・・でも・・・今、俺はお前と・・・生きたいと・・・思う・・・。」
 ゼルガディスの告白にアメリアは驚いた。驚いたが、嬉しくもあった。
「・・・わたしも、ゼルガディスさんと・・・生きたいです。」
 抱き締める腕に力を込める。
 
『・・・自分に、そして相手に恥じない選択をしろ。』
 
 ガウリイの言葉をゼルガディスは思い出す。
 −するさ、恥じない選択を・・・・・・。
 
「・・・・・・ゼルガディスさん、もう一人で苦しまないで・・・その体の事も・・・だって・・・あなたは・・・もう一人じゃない。」
 アメリアが囁く。
 −ああ、俺は、俺達はもう、一人じゃない。
 
 
 
 
 








 
 
~*~*~後書き~*~*~
 ゼルアメを書くのは初めてだったんで所々、矛盾点などなどが一杯あると思います。
 それでも、皆様、心を広くもってそれを許して下さい。
 何より、これを最後まで読んで下さってありがとうございました。