「残酷な…」


「ゼルガディースさーーん」
びとっ

 アメリアは正面からゼルに抱き着いた!
「!」
「ふむふむ。うんうん」
「あらーお二人さん、お熱いこと」
「なっ、違う!」
「ゼルガディースさーーん」がしっ
 今度は片足にしがみついた!
「お前えわ何を◯×△□■◇」
「ねえ、何かお邪魔みたいよガウリイ。先行こっ」
「そーだなー」
「ちょっと待てー!」
「ふーん。なるほど」
 アメリアの腕がゼルの太もものあたりからひざ、くるぶしへとおりていく。
「(のええええああああめええええりああああ)!」
「うん、分かりました!次!」ぐわしっ
 今度はドラゴンスープレックスの要領で背中からゼルにしがみついた!
「(ぎいえええ)!」
「ふんふん。ほうほう」
 アメリアの腕は肩から肘へ。
「(表記不可)!」
「はい分かりました、ゼルガディスさん!もういいですよ!」
「はーへーーひーーごっくん、…へ?」
 何ごともなかったかのようにアメリアは先へ行ったリナとガウリイを追い掛けた。ゼルその場においてけぼり。
「な、な、な。
 何なんだー!」
 叫びは空しく響いた…
 
 
 それから数日は、アメリアの妙な奇行やいつものトラブルに巻き込まれることもなく、平穏無事に過ぎ去った。ガウリイ達に先日の件をツッこまれたがゼルだって事情を知らないのである。ただ、アメリアはあれからなにやら大事そうに布製の小袋を抱えるようになっていた。
 
 
 とある日の夕刻前、宿屋へ到着。
「ゼルガディスさん、ちょっと」
「何だ」
 ゼルはアメリアに手招きされて付いて行く。
「ごゆっくり」するどく聞き付けたリナがぼそり。
「うるさいっ」
 
 
 アメリアとリナの部屋。
 ばつが悪そうに入るゼル。アメリアはあの小袋の紐をゆるめ、中からなにやら取り出した。可愛いリボンで包装してあるそれをゼルに差し出す。
「プレゼントです、どうぞ!」
「俺に?」
「はい!」
「今日は何かの日だったか」
「いえ、そーゆー訳じゃないんですけど、何となく」
「…」
 包みを解いて中から柔らかいものを取り出すと、それはパジャマだった。
 予想(何)外のものに驚きながら広げてみる。白くてやわらかい。洋服合わせをする要領で、そのパジャマを服の上からあわせてみる。
「お前が…縫ったのか?」
「そーです!お店でちょうどいい布を見つけまして、ゼルガディスさんって服、白のイメージなもんですからその色にしたんですけど、どうでしょうか」
「ああ、悪くない。ありがとう」
「本当ですか!わーいよかった!」
 嬉しそうなアメリア。はて、何の日だったか。ゼルは全く憶えがない。しかしとにかく貰いっぱなしというのも何なので、
「礼をしよう。何か欲しいものはあるか」
「えっ?いいですよそんな気を使わなくても。ただ、思い付きでしたから!」
 ひょっとして先日のあれはこのための採寸だったのか。思い付きであの方法とはアメリアらしいようで、勿体ないようで…
「何か言いました?」
「いや、ああこれ、よく出来たな。こういうのは得意なのか?」
「ええ、ねーさんがそーいうの好きで」
「ほう…」
 それからゼルにとっては他愛もない会話を少々して、夕刻も過ぎたので部屋を出て、プレゼントを自分の部屋においてから食堂へ向かった。
 
 
 食事は相変わらずガウリイとリナの争奪戦。毎度の事ながらすさまじい。ともかく四者はたっぷりと胃を満たし、アメリアは部屋へ引き上げて行った。いつもなら一緒に行くリナがちょっと残ってゼルに一言。
「あの子、最近ずっと遅くまで起きて何かやってたのよね。ゼル、あんた何か知らない?」
 ロコツにからかいの表情でゼルを冷やかす。
「…。知らん」
「あっそ。今日はゆっくり眠れるみたいね、よかったよかった。じゃーねー」
 そしてリナも部屋へ。
「全く…」
 隣ではガウリイがさっそくアルコールに手を付けていた。
「又飲むのか」
「ゼルもやるんだろ」
「まあな」
 
 
 夜更け。ゼルはちびりちびり、ガウリイはぐいぐいとあれからずっと酒屋に居座っていた。べらべらと語り合うでもない。ほとんど無言。そしてもうそろそろ男どももお休みの時間とあいなる頃。
「で、ゼル、お返し何にするんだー?」
「ぶーーーーーーー」
「考えてないのかあ」
「ななななにを」
「リナから聞いたぜ、寝巻きかあ、いいよなあ」
「あいつめ〜〜〜」
「意味深だな」
 ごしゃ。
「…あのなあ」
「無難なとこで同じもん返すってのは?」
「あいつは自分の分も作った。聞いてんだろダンナ」
 何でも、まず自分のを先に作って練習しておいてから、ゼルの分を作ったという。
「ははは。バレたか」
「全く…」
「まっ折角いいの貰ったんだからさ、お返しも意味深なのにしたらどーだ?」
「あのな!」
 これ以上からかわれてはたまらんとばかりにゼルは席をたった。とはいえ部屋は同室なのだが。
「じゃ、オレはこれで」
「は?」
 そこはリナとアメリアの部屋の前だった。
「折角なんだからさー、ペアルックで寝ろよ」
「ぶーーーーーーー
 だ、ダンナ酔ってるだろ」
「酔ってるよーん」
 だめだこりゃ。
「邪魔すんなよ、邪魔しないでやるからさ」
「…分かったよ」
「ああそうそうそれからなー」
「まだ何かあるのか」
「オレなら、下着にするけどなっ。サイズ分かってんだろ?」
「!」
 ガウリイ、部屋へ退散。
「あ、あのなあ…」
 
 
 自分達の部屋の前。なのだが多少緊張の面もちでドアをノックした。
「あーオホン、俺だ」
「どうぞ」
 やはりアメリアはこっちにいた。何を吹聴されてこの部屋に来ていたのかを思うと明日のあいつらのツッコミが恐ろしい。
「まだ起きていたのか」
「もう寝ようと思ってました。さっ、これ、どーぞ」
 それは夕食前部屋に置いたアメリアからのプレゼント。そのアメリアは、おそろいであるパジャマをすでに着ていた。
「悪かったな」
「何がです?」
「眠かったんだろ。それをこんな夜更けまで待って」
「そんなことないですよ」
 真っ白なパジャマと笑顔。どっちも、
「いいな…」
「え?」「いや何でもない。ほら、そっち向け」
 ゼルはプレゼントに着替えた。
 
 
「ゼルガディスさん、どうしたんですそんなところで」
「どうって…いいからもう寝ろ」
「床なんてお尻痛くなっちゃいますよ。こっちへ来て下さい」
 自分がいるベッドをぽんぽんと叩く。
「何を言ってるんだ」
「折角ですから、ペアルック」
「………」
 ゼルは、もっとゆっくり飲んでくればよかった、とか、もつかな、とか、いや、我慢我慢、とか、忍、とか、とにかく今夜は精神戦だと覚悟した。
 
 
 ゼルが内心で戦っているとゆーのに対象者は隣ですーすー寝息をたてのんきなもんである。
「………。しくしく」
 とにかく今夜は眠れそうもない。昨日まではアメリアがそうだったが今日は、いやひょっとしたら今日からはゼルの番。
 その残酷な魔法剣士ゼルガディスさんはというと、ふと先程のガウリイの魔族のようなつぶやきを思い出し、独り思索の森に佇んでいた。
 それが第三者の目にどう映ったかは全国のゼルファンを敵にまわしたくないのであえて書かないことにする。