「雷」
どこかで雷の音がする。「目にはさやかに見えねども」だ。
目には見えないが、確かに放電現象のひとつだとわかるのである。見えなくとも、どこか遠くで鳴っているらしい。
それはまるで忘れられた谺のように、眠りの中で呟くうわ言のように、呆れるほど現実味を伴わないほど遠くのでき事なのだ。
どれくらい遠くなのか、と想像する。
するとたちまち、やじ馬根性を発揮する目が、果たしてどこまで行けば、あの雷が実際の自分に近いと感じられるだろうかと、遠出をしたがりだす。
物質的限界を超えて。
やがて感覚は、妙な目眩を覚える。
まるで自分が、二ケ所に同時に存在するとでもいうように。
1987.8.
(感覚の目眩、ってやつは日常でも起こりますよね。うん。)
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