学園スレイヤーズ!!
第二限「出会いは黄色い花」


「すいませ〜〜〜ん。靴下くださ〜〜〜〜い。」
「は〜い。」

受付窓口に現れたのは、流れるような黒髪の美女、男子生徒のあこがれの的、事務員のシルフィールさんだ。
「何センチのですか?」
耳にかかる髪をかきあげるしぐさは、女のリナから見ても色っぽいなあと思うのだ。
「えっと。22cm。」
「中等部のですね?」
「こ…………高等部です…………。」
リナが思いきり低い声で答えると、シルフィールは口に手をあてた。
「まあ、ごめんなさいっ。300円です。」
「は〜い。」リナはたれパンダの財布をごそごそ。

ふと気づいたように、シルフィールがリナに話し掛けてきた。
「あの。高等部、お休みの子が多いんじゃありません?」
「え?」
「いえ、ちょっと気になったものですから。
さっき下駄箱の前を通ったら、上履きの残ってる段が結構ありましたし……」
一日に二度も同じ話題か、とリナは首をかしげる。
「インフルエンザのせいかと思ったんですけど。」
「確かにインフルエンザは流行ってますけど。
でも、中等部はそれほどでもないんですよ。」
「そうなんですか………?」

中等部は校舎こそ別になってはいるものの、科学室や音楽室など、特別教室は中等部と高等部の中間にあるものを共同で使っている。
高等部とまったく交流がないわけではないのだ。
と、すると?
「引き止めちゃってごめんなさいね。はい、靴下。」
「あ、どうも。」
 

学校指定の靴下を抱えながら、リナは校舎の裏を歩いて行った。
学校の事務所から、カフェテリアに行くにはこっちのが近道なのだ。
 


空は真っ青で、気持ちがいい。もうすぐ春だ。
上を見上げながらリナは、マルチナとシルフィールの話をつらつらと考えていた。
生徒の欠席。
高等部。
それも、通いの子に集中。
お見舞いに行っても、会わせてくれない。
……?
 

がつん!!
「いってぇ!!」
「うぎゃ!?な、なに!?」

突然足元に何かがぶつかり、予測もしていなかったリナはもろにあお向けに転がった。
「なんなのよ!?」
すんでのところで手を地面に打ち付けて、すぐに態勢を整えるリナ。
これも体育の授業の賜物か(笑)
 

見ると、頭を抱えてうずくまる麦藁帽子の男がいた。
作業服を着て、手には軍手をしている。
「あんた。あたしに何の恨みがあんのよ!」
「いてててて。人にいきなり蹴りくらわして、言うことはそれだけかよ。」
男は、麦藁帽子の頭から手を離し、汚れた膝を払っている。
「蹴り…?」
「おお。オレはずっとここにいたんだ。それをいきなりおまえさんが横から…」
「…………え。」
見ると、男の脇には移植ゴテやら花の鉢やらが転がっている。そう言えば、左手
の壁添いに花壇があったことをリナは思い出した。
「あぅ…。ご、ごめんなさい…。ちょっち考え事してたもんで…」
花壇の植え替えの最中だった男を、上を見ていて気づかなかったリナが蹴り倒した、ということらしい。
「まあいいさ。花が無事だったから。」
作業服の男は、しゃがんだ姿勢のままで顔を起こして笑った。
麦藁帽子の中身が見えた。

一瞬、リナは息を飲む。
 
………青い。
まるで今さっきまで見ていた、晴れまくった空の色のような。
植え替えようとしていた花の花弁のような。
青い瞳。
辺りに広がる青の花。
青、また青。

青に囲まれた気分のリナだった。
 

「植え替えって…この花を今度植えるの。」
一瞬ぼうっとした自分を首を振って追い出し、リナが話題を変える。
「そうさ。もうすぐ3年生が卒業なんだろ。人がたくさん来るから、植え替えろ
ってさ。」
「でも…」
リナは、花壇に植わっている黄色の花を見る。
「こっちはどうすんの…?」
「これか。抜いちまうのさ。」
「え…。」

リナは花壇の前に座りこむ。
黄色の花は確かにしおれては来ていた。
ところどころ茶色く変色しはじめているものもある。
リナはその前にしゃがむと、ぽつりと呟いた。
「まだ咲いてるのに。なんか…勿体ないな。」
「ま、見た目を気にする人もいるからな。
枯れかかった花じゃ、来賓に見せられないって思ったんだろ。」
「だって。まだ生きてるのに。
………たとえ花が枯れても、この植物はまだ生きてるのよ。」
「……」
男に見つめられているのに気づかず、リナはそっと花をなでていた。

「変わってるな。おまえさん。」

「え…」
リナは耳を疑う。
振り返ったリナは、始めて男の視線に気づいて真っ赤になった。
やわらかな。
まるで温度が伝わってくるような、暖かい視線だった。
「安心しな。この花は捨てたりしないよ。
何か別の方法がないか、オレも考えてたとこだ。
一年草じゃないから、ちゃんと面倒を見ればまた来年花が咲くから。」
「あ。そうなんだ。…よかった。」

立ち上がろうとしたリナに、男はすでに抜いてあった花を差し出した。
「一鉢。持ってくか。」
「あ…うん。じゃ、もらってく。」
「待ってろ。」
がさがさとビニールに抜いた花を土塊ごと入れ、リナに手渡した男は立ち上がった。
リナは驚く。
しゃがんでいたのでわからなかったが、男の身長は優に180cmを超えていたのだ。
「ほい。」
ビニール袋を渡され、呆然としたまま受け取る。
「あ…ありが、と…」
「どういたしまして。」

男は再び、にっこりと笑ってまた作業に戻った。
リナは貰った袋を下げながら、カフェテリアに向かう。
その途中、一度だけ振り向いたが、男は作業に熱中しているようだった。
 
 


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