「うみにひかり。」


あたまががんがんする。
しんぞうがいたい。
どきどきしすぎて、いたい。

とうさんが、しぬ?
しんじゃう?
なんのこと?
ねえ、うそだよね?
いまの、おじさんのじょうだんだよね?


ぼくはまどからはなれて、とうさんにとびついた。
かたをゆさぶる。
「とうさん!」
とうさんはめをあけない。
「とうさん!」
まだあけない。
「とうさんってば!!ねえ、ホントはめがさめてるんでしょ!?ぼくをおどかそうとおもって、ねたふりしてるだけなんでしょ!ぼく・・・・ぼく、いっぱいおどろいたから!もおいいからっ!!
おねがい・・・・・・めをあけてよぉ・・・・・っ・・・・」


いくらゆさぶっても。
げんこつでむねをたたいても。

とうさんは、めをさまさなかったんだ。

「とうさんの・・・・・・ばかぁっ・・・・・!」

なんにもみえない。
めをつぶったままのとうさんのかおも。
ベッドも、ゆかも、なんにも。
めのまわりがぼやぼやして。
ぜんぶがはいいろになって、ゆらゆら。
なんにも、みえないよ。
どうしてほっぺたのうえを、つめたいみずがながれていくの。




そのとき、だ。
なんにもみえないとおもった、ぼくのまえに。

しろ。

ぴんく。

きいろ。

だれかがおしえてくれた、あかねいろ。


きれいないろだった。
ぼくは、めをこすってみまわした。
そのきれいないろは、まどのむこうにみえた。
 
いままではいいろだったそらが。
ちょっとだけくもがわれて、たいようのひかりがはいってきたからだ。
それはとってもきれいで。
いままでにみたことのないくらい、きれいで。
 
まるでそらから、ひかりがながれこんでくるみたいに。
ほそいすじが、くもからうみにむかっておりてくる。
すると。
そらとおなじ、くものいろだったうみが。
ひかりがあたったところだけ、あおくなったんだ。

ぼくがずっとみたかった、あおいあおいいろに。
とうさんの、わらったときのめのいろみたいだ。
 

なんだかふしぎで、ぼくはさっきまでのことをすっかりわすれて、うっとりとみていた。
とつぜん、そのひかりが、ぱあっとおおきくなった。
ぼくがびっくりして、めをふさぐよりはやく。
そのおおきなひかりは、ぼくもなにもかも、すっかりつつんでしまった。
「うわあぅ…っ」
 
 
 
きがつくと、ぼくはまだまどのそばにすわったままだった。
でも、へやのなかがへんだ。
まっしろなひかりにつつまれているみたいで、まぶしい。
ぼくはめをぱちぱちし、つぎにはっとした。
とうさん。
とうさんは!?
 


とうさんはベッドのうえにねていた。
さっきとおなじ。
でも。
とうさんのあたまのそばに、なにかがいる。

ううん、だれか、だ。
にんげんみたいだ。
 

そのひとは、とうさんにくらべると、こどもみたいにちっちゃかった。
ぼくよりはずっとおおきいんだけど。
ふわふわしたかみのけが、かおのまわりにぷかぷかうかんでいた。

おばけだ。

ぼくはそうおもった。
たいへんだ、とうさんをまもらなきゃ。
でもからだがうごかない。
 
おばけは、とうさんのかおを、そっとのぞきこんでるみたいだった。
ほそいゆびが、とうさんのかみのけをさわっていた。
やさしく、まるでなでているみたいに。
そうか。
なでてるんだ。
とうさんが、ぼくによくやるみたいに。
おばけは、こわくなかった。
ぜんぜん、こわくなかった。
かがんでいるので、かおはよくみえなかったけど、なぜだかぜんぜん、こわくないんだ。
 
『ガウリイ。』
 
ぼくはびっくりした。
おばけが、ぼくのなまえをしってる!

…と、おもったんだけど、ちがった。
おばけは、とうさんのかおをみていたんだ。
ぼくはおもいだした。
とうさんのなまえも、ガウリイだということを。
 
『ガウリイ。』
 
おばけはとうさんをしってるんだ。
 
『おきなさいよ、このクラゲ。』
 
???え???
 
おばけは、そのゆびで、とうさんのはなをぎゅっとつまんだ。
『いつまでねてるつもり?そんなんだから、頭にふやけたパスタとか、増えるワカメが詰まってるって、言われちゃうのよ。』

な、な、なんなんだ?
おばけは、なにをいってるの??

『いい加減におきないと。』
おばけは、くすっとわらったみたいだった。
『スリッパだかんね!』


シーツのうえの、とうさんのてが、ぴくっとうごいた。
 

おばけはかおをあげた。

ぼくをみた。

ぼくもおばけをみた。

なぜだか、きゅうに。
まためのまえが、ぼやぼやしてきた。

おばけは、そのぼやぼやしたなかで、ふわっとわらいかけてくれたきがした。
おばけがてをのばした。
ぼくもてをのばした。

もうすこしで、とどく。
 


でも。

またきゅうに、ひかりがぱあああっとおおきくなり。
ぼくはめがくらんで、なにもみえなくなった。

ぼくはむちゅうで、なにかをさけんでいた。
おばけもなにかをいってるみたいだった。

でもそのすがたも、そのこえも。

ぜんぶ、ひかりのなかにきえてしまった……。
 
 
 


どこかで、かねがなっていた。
から〜〜〜ん、から〜〜〜ん、と。
 

それがゆうがたのかねだときがついて、ぼくはめをさました。
まどのそとは、すっかりうすくらくなっていた。
くもがはれて、うみのむこうにゆうやけがみえていた。
 
ぼくはとうさんのベッドに、つっぷすようにねむっていた。
きょろきょろとへやをみまわす。
さっきのは…??
ゆめ…なのかな?
あのひかりも。おばけも。
ぜんぶゆめ?

とうさんのてが、ぴくっとうごいたのも??

ぼくはあわてておきあがって、とうさんのてをさがした。
にぎってみる。
すると、とうさんのてが、またぴくっとうごいた!

ゆめじゃない!
こんどはホントに、ぴくっとうごいたんだ!
ぼくはいそいで、とうさんのかおをのぞきこむ。
「とうさん!とうさん!」
 
くもからひかりがさしこむように。

うみがひかりにてらされてあおくなるように。

とうさんのめが、ひらいた。



「ガウリイ…?なんでないてるんだ…?」
「えっ…」
ぼくはめをこすった。
「ないてなんかないよ…。」

ごしごしこする。
だってとうさんが、めをさましたんだもの。

とうさんはへやのなかをみまわして、あたまをかるくふった。
「ここは…ああ、そうか。船が転覆して…流されたのか。」
「うん。やどやのおじさんがたすけてくれたんだ。」
「お前、怪我は。」
「ううん、ぼくはだいじょうぶ。とうさんこそ、あたまとかいたくない?」
とうさんは、にっこりとわらうと、ぼくのあたまをくしゃくしゃした。
「すまん…。心配、かけたな。」
 
ああ。
とうさんのめのいろだ。
あおい、あおい、ほかのなによりもあおいめ。

ぼくがずっと、みたかったいろだ。
 
「ううん、とうさんがおきてくれて、うれしいよ。」
「もう大丈夫だ。すぐ、元気になるから。」
「うん。」
とうさんのうでが、ぼくをぐっとだきよせた。
とうさんはあったかかった。

ぼくはほっとして、からだからどんどんちからがぬけていくのがわかった。
ふわふわとねむくなる。
とうさんはもうだいじょうぶ。
ぼくも、もうだいじょうぶ。
あの、おばけのおかげだ。

ぼくはとうさんのむねに、すりすりしながらいった。
 
「ねえ、とうさん。スリッパ…ってなんのこと?」

「・・・へっ?」
 
 
 


おしまい。
 

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不思議しりーず?(笑)
ガウリイ、人魚に魂を奪われるところでした(笑)
人魚と、メローは違うというところと、同じというところがあります。
メローは海で死んだ人の魂を家に隠すとか。アイルランドでは人魚をメロウ、またはメルチャと呼ぶようです。
人魚には予知能力があり、魂はないといいます。予知能力を持つため、人魚と結婚した漁師には繁栄が約束されますが、いずれこのカップルはうまく行かず、どちらかが住み慣れた地上、もしくは海へ帰ってしまうそうです。
今回、このお話の中では、海で溺れた人の魂を取る海の魔物、といった感じですけどね(笑)2人のガウリイの前に現れたリナは、実は本人ではなく、ガウリイの記憶の中のリナではないかと思います。ガウリイ(親)の生存本能が、自ら呼び起こした幻影ではないかと。
でも、そうではないかも知れませんね。想像の余地あり、です♪
では、今回もまたひらがなばっかりのお話ですが、読んで下さった方に、感謝を込めて♪
そーらがお送りしました。

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