『おんりー・ゆー』


 
 
「いたたたたた……………ここ、どこ…………?」
「ええと…………オレの腹の上、かな…………」
「それでもって、わたしの背中の上ですう…………」
「もがもが。ははにいへば、おれのかおのふえら。あめりは、はやふほへ。」
「あああっ!ゼルガディスさんすいませんっ!!
ガウリイさん、リナさん、早く降りて下さいっ!
このままじゃ、ゼルガディスさんが窒息してしまいますっ!」
「降りてっていったって、狭くて狭くて………」
「小さな部屋みたいだな。こっから光が漏れてるぞ。」
「ホント?じゃ、そこが出口かも知れないわね。
ちょっとガウリイ、蹴っとばしてみて!」
「おう!」
 
がいんっ!
ばかっ!!
 
「うぎゃああああああ!」
「うわああああああっ!」
「ぎょえええええええええ!」
「ふごふがふごふが!」
どどどどどどどっ!!

 
扉らしきものが開き、四人は、詰め込まれていたせせこましい空間から文字どおり飛び出すことになった。
真っ暗な空間から、いきなり明るくて眩しい場所に出たようだ。
「くぁっ!なにこれ!」
「な、なんだこりゃ。」
「ほへっ?」
「あめりは、いいはへんに、どからいと」
「あああっ!すいませんっ!今どきますからっ!!」
「………って…………え???」
 
四人はようやく立ち上がったが、その格好のまま、立ちすくむこととなった。
転がり出た、その場所とは。
 
 
『えええええええええ!!!!』
『きゃあああああああああ!!!!』
『うっそおおおおおおおおお!!!!』
歓喜の声とも悲鳴ともつかない声が充満する、
よくは見えないが、大勢の人間の声のようだった。
 
「な………なに??」
「さ…………さあ??」
「ここ………どこですか?」
「俺にきくな。」
呆然とした四人が顔を見合わせていると、途端に、この世のものとも思えない地響きが鳴り渡った。
「な、なになに??」
 
どどどどどどどど………………
 
「リナちゃん、かわいいっ!!」
「すご〜〜い、みんなそっくり〜〜〜!!!!」
「姫だ、姫だ〜〜〜!!」
「ゼルガディスさまぁあ〜〜〜!!!」
あっという間に、四人は並みいる女性軍に取り囲まれてしまった。
みんな、一様に目をきらきらさせて、うっとりとこちらを眺めている。
ぱぱぱぱぱぱぱぱぱっ!
連続した光が浴びせられる。
 
「魔法攻撃っ!?」
「伏せろ、リナっ!」
「っきゃああああ!!リナをかばってるう〜〜〜!!!
ガウリイ、かっこいいいいっ!!」
「アメリア、油断するな!」
「はいっ、ゼルガディスさんっ!!」
「きゃ〜〜〜〜姫〜〜〜!!あたしをヴィスファランクで殴って〜〜〜!」
「いや〜〜〜ゼルガディスっ!アメリアにひっつかないでっ!!
あなたは残酷な魔剣士でしょうっ!?孤独な戦士でしょうっ!?」
「んな………な………なんなのよ、一体っ!!!!」
 


 
リナ達一行が、わからないのも無理はない。
彼等が洞窟の空間を抜け、出現した先は。
それまでいた森の中でもなく、今までに見たことのない場所だった。
真っ白な壁、低い天井、明るい照明。
 
「リナさん、なんか変ですう。皆、着ているものもなんとなく違うし、こんな場所、見たことも聞いたこともないですし。もしかしてわたし達、異世界に入り込んでしまったのでは………?」
「ううむ………。それに、あたし達の名前を知っているのも不思議ね………。」
「何だか、若い女の子ばっかりだなあ。お、男もいるぞ、少ないけど。」
「それに何だ、長いテーブルがずらりと並んでいるが、上に乗っているのは書物か………?」
冷静に分析しようとする四人だが、それはかなり難しかった。
ずらりと並んでいた興奮状態の人垣から、一人が抜け駆けをしたのである。
だきっ!!
「ゼルガディスさまっ!お慕いしておりますっ!」
一人の女性が、ゼルガディスに抱きついた。
 
それがきっかけとなった。
一斉に、彼等に向かって全員が突進しだしたのである。
 
「姫〜〜〜〜!かわいい、かわいい、姫〜〜〜!」
「きゃあああああ!やめて下さいいいいい!」
「リナちゃああんん!かわいいかわいい〜♪」
「ああん、ほっぺつるつる〜〜♪」
「ホントにちっちゃ〜〜〜い!それにほっそ〜〜い!!」
「うぎゃああああ!なにすんのよっ!気色悪いっ!!
離れてよぉっ!!」
「ガウリイだガウリイだガウリイだ〜〜〜♪」
「金髪さらさら〜〜〜♪」
「お姫様だっこして〜〜〜!」
「頭わしわしして〜〜〜!」
「うおわ、な、なんだなんだ!?!?」
 
ぎゃーぴーぎゃーぴー
ぢたばたぢたばた
 
「こっ……このっ………いい加減にっ………」
「あああ、リナさん、魔法はダメです、魔法はっ!」
「そうだぞ、リナ!こんな狭い場所で、しかも大勢を前にしてっ!」
「え〜〜い、やかましいっ!じゃあこの状況をどうしろとっ!!」
 

ぴりぴりぴりぴりぴーーーーーーーー!!!
 
リナがぷち切れる寸前、救いの主が現れた。
赤い服を着た人物が高らかに笛を鳴らすと、嘘のようにぴたっと混乱はおさまった。
「はいはい、通して下さい〜〜〜」
ざざざっと人垣が二つに分かれ、その人物を通した。
騒ぎが嘘のように静まる。
結局四人は、大人しくその人物についていくことにした。
 
 
 
 


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「スレイヤーズ…………!?」
四人は素頓狂な声をあげていた。
会場とドアでつながっている、別室に案内され、そこで驚くべき事実を耳にしたのである。

「私も信じられません。まさかあなた方が本当に存在しているなんて……………。」
赤い服を着た女性が、感慨深げに呟く。
四人の前には、15册に及ぶ小さな書物が並べられていた。
「まさか、俺達の事が書かれた書物が、こっちの世界で売られているとはな………。」

表紙には、見覚えのある顔が並んでいる。
どれも、タイトルの上に小さく『スレイヤーズ』と書かれていた。
「これは本編ですし、リナさんとナーガさんが活躍するシリーズもたくさんあるんですよ?」
「げげっ。ナーガまで出てるのっ!?」
「へええ。これがそうか。なになに………おおっ!?載ってるぞ、オレが載ってるっ!」
「だからそう言っただろうが。」
「リナさん、心当たりはないんですか?この、ええと、何と読むんでしたっけ。作者さんと。」
「しっ………知らないわよ。こんな本があることすら、今の今まで知らなかったんだから。」

リナがおそるおそる切り出す。
「あの………。どうやったら元の世界に戻れるか、わかりません……よね?」
この集まりの主催者だという女性は、申し訳なさそうに首を振る。
「残念ながら私には………。もともと、皆さんはどうやってこちらの世界に?」
「わたし達、とある洞窟を探検していたんです。そうしたら、急に。」
「そう。伝説の宝を探しにね。」
「手がかりがあるとすれば、出てきた場所しか………。」
「あの騒ぎの中をですか………?また囲まれちゃうんじゃ………。」
「どうしましょう…………?」
場の人間が、一斉に腕組みをして、考え込んでしまった。
 
ぽんっ!
手をうったのは、主催の女性である。
「そうだ、こうしませんか。私が、あなた方を正式に雇うというのは?」
「は??」
「プロのコスプレイヤーとして、会場を練り歩いていただくんです♪大丈夫、取り囲まれないよう気をつけますから。そうすれば、会場に戻って調べることもできますよ。」
「……………………」

四人は何となく顔を見合わせた。
「コスプレって………何…………?」
 
 
 




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『ご来場の皆様にお知らせします♪
本日、特別ゲストとして、こちら四名のコスプレイヤー様にお越しいただきました。くれぐれも、失礼のないようお願いいたします♪
なお、握手会と撮影会は午後3時より執り行いますので、それまで、一切の写真撮影とプレゼントなどの手渡し、また不要にお引き止めしないよう、皆様にお願い申し上げます。』
主催の女性はマイクを片手に、四人を会場で紹介した。
 
「見せ物じゃないぞ、俺達は………」
周囲の大注目を浴びつつ、ゼルガディスが不機嫌に呟いた。
思いっきりイヤそうに、顔の下半分までベールで覆ってしまう。
「仕方ないじゃない、我慢しなさい。手がかりを探さなくちゃ、帰れないでしょ?」
と、リナ。
「しかし…………」
「そうですよ、ゼルガディスさん。ここは一つ、穏便に。」
「お前に使われたくないぞ、その言葉は………」

「え〜〜〜と。つまり、何がどうなってるんだ、リナ?」
ガウリイが背後からのほほんと問いかけたので、リナは危うく床の絨毯にけつまづくところだった。なんとかふんばって堪える。
「やっぱりあんたはわかってなかったか………。
いい?ともかく、黙ってあたしについてきて、何かおかしなことがあったら報告すること。わかった?」
「おかしな事って、どういう風に?」
「それが説明できれば、したいわよ、あたしだって。
ともかく、他と何か違う雰囲気の場所とか、あんたの野生のカンをめいっぱい働かせてほしーのよ。」
「何だかわからんが………わかった。」
「はあ。」

リナが肩を落とすと、何故か会場のあちこちから、ひそひそと声があがった。
皆、一様に頬を染め、何やら嬉しそうだ。
「…………?何なのよ、一体…………。」
訳がわからず、ただリナは首をひねるだけだった。
 
 








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