『おひめさまのきっす』

 
 
 
ある日ある時ある食堂の前で。
仲良し四人組は仲良く並んで立っていた。

「食堂ですね。」
「食堂よ。」
「やれやれ、やっと着いたか。」
憔悴した顔の三人はおもむろに入り口へ向かう。
比較的大きな港町だった。
どの店もごった返し、空席を見つけるのが難しく、ようやく四人は港の外れで、ぽつんとたっている食堂を見つけたところである。

「どうしてどこもこんなに混んでるんでしょうね。」
「何でも、この近くにあるフォーナイン諸島連合の会議が開かれているんだそうだ。」
「フォーナイン諸島ってまさか。」リナがげっと嫌そうな顔をする。
「あの、ちびっっっちゃい島が米粒みたいにたくさん集まった、あの?」
「知ってます、それ。その島が全部、独立王国なんですよね。」
「そーゆーの、悪いけど苦手よ、あたし。」
リナはぱたぱたと手を振った。
「小さいのにぞろぞろぞろ出てくる、カ●キリの卵みたいなの・・・」
「これから飯を食うって時に、その例えはやめろ。ともかく、入るぞ。」

その時、それまで黙っていたガウリイが、珍しく意義を唱えた。
「えええ。ここにするのかあ?」
三人はぴたりと足を止めた。
申し合わせたように、ぎちぎちと無表情で振り返る。
「何を言ってるんです、ガウリイさん。立派なお店じゃないですか。
ほらほら、美味しそうな匂いも漂ってきてますよ。」
「どこもごった返してるんだ。食い物屋が見つかっただけでもよしとしろ。」
「そうよ、ガウリイ。贅沢言ってる場合じゃないわ。」
「でもなあ・・・・」
何が気にいらないのか、ガウリイは腕組みして店の看板を見上げた。
「な〜んとなく・・・嫌な予感がするんだけど・・」
「・・・あのね、ガウリイ。」
リナの声は、思いきり低音だった。
「〜〜〜〜元はと言えば、あんたのせいだかんね!あんたの!
たっぷりあったはずの食料を、遠慮なく誰かさんがばかばか食べるから!
予定外だけど、この町に寄ってご飯を食べるしかなくなったんじゃないのよ。」
「だ・・・・誰かさんって・・・誰?」
ガウリイのお約束ボケに、リナの目がぎらりと光る。
 
ばっ
「うぐぅっ!」
ずるっ、べたっ!
「いでっ!!」
ごちっ。ずるずるずる。
「hhhhっ」

・・・・・以上。
リナに突然首ねっこをつかまれ、引きずり倒され。
そのまま強引に連行されたガウリイの、率直な感想をお伝えしました。
 
 
 
 
 


     †††††






 
っっ〜〜〜〜〜〜〜っっ!!食べた食べたっ!!」

あっという間もなく食後である。
小説は一言で終わって省エネだねえ。
リナもアメリアもガウリイも、膨れ上がったお腹を幸せそうにさすっている。
「こんな場所でやってる店とも思えない味だったわね!ん〜〜なかなか♪♪」
「そうですね〜♪美味しかったですよね〜〜・・・・♪」
「まったくだあ・・・」
まったりとあいづちを打つガウリイに、リナが意地悪そうな視線を向ける。
「ああらガウリイ。店に入るの嫌がったくせに。ずいぶんと現金ねえ?」
「いやあ・・・だってよ、こんなに旨いってわからなかったから。」
ガウリイ、照れ笑い。
「あんな怪しい看板出してるし、てっきり怪しい店かと思ったんだが・・・
どうやらオレの気のせいだったみたいで、良かった良かった。」
「・・・?」
その言葉にリナが眉を寄せた。
「ちょっと。看板見ただけで、何で怪しいってわかるのよ。フツーの看板だったじゃない。単に『食堂』って・・・」
ガウリイは人さし指をぴっぴっと振って説明。
「そのでっかい文字の前と後にも、書いてあっただろ。小さい字で。」
「へ・・・・・?」

リナはアメリアとゼルガディスを振り返ったが、二人とも何のことかと首を振るばかり。
ガウリイは不思議そうに全員を見回す。
「だって、『食堂』の前に、『普通の』ってちっちゃく書いてあってだろ?
普通の飯屋だったら、『普通の』なんて、わざわざ書かないんじゃないかと思ってさ。」
ガウリイは腕組みをして首を傾げた。
「それに、『食堂』のあとにも書いてあったんだよ。ええとほら・・・何だっけ、そうだ・・・」
「・・・?」
ガウリイの得意気な説明はそこまでだった。

わんっっ・・・・!!

突然、正体不明の煙がたちこめ、ガウリイを包み込んだからだ。

もわもわもわもわ・・・・


「な、なんだこの煙はっ!?」
「わかりませえん!」
「みんな、油断しないでっ!」

もわもわもわ・・・・・・・

やげて煙が晴れ。
三人が目をこらしてその場に見つけたのは。
何も変わらない三人と・・・・。
「なっ・・・」とゼルガディス。
「えええっ!」とアメリア。
「うえええええっっ!?」とリナ。

そこにいるはずの、ガウリイの姿はなかった。
文字どおり、煙のように消えていたのだ。
代わりにそこにいたのは。
本人よりかなりミニマムサイズの。

ぽよんっ・・・



一匹のクラゲだった。
 
「!?!?!?!?」
「ななななななな?」ただ『な』を連発するアメリア。
「ククククク・・?」クラゲと言いたいのかゼルガディス。
「ま・・・まさか・・・・・・?」
リナが額の汗をぬぐう。

クラゲがぷるっと震えた。
よく見ると、頭(?)らしき傘の部分に、子供の落書きのような目と口が見えた。
小さいゴマつぶのような目が、ぱちぱちと瞬く。
「!」

と思うと、手にも見える触手をぴっと上げて頭(?)をかいたのである。
三角の口がぱくぱく動いた。
『あれえ?やっぱこれ・・・・オレ?』

「ガ‥‥‥‥ガウリイっ!?」
「ガウリイさんっっ!?」
リナとアメリアが一気に青ざめる。
「そんな、バカな・・・・」
ゼルガディスが慌ててテーブルクロスをめくってみたが、そこにもガウリイの姿はなかった。
テーブルの上には、青白いクラゲ。
まるで海の中をたゆたっているように、その体(?)がぷるぷるとゼリーのように揺れている。
 
リナはひきつる口元で、おもむろにクラゲに尋ねる。
「ホ・・・ホントにあんた・・・・ガウリイ・・・・・・?」
『う〜〜〜ん。どうもそうらしいな。』
クラゲが自分の体を見回して、触手の一本でぽりぽりと頭(?)をかいた。
「ど、どういうことですかっ!?魔法か何かですかっ!?」
「まさか、一瞬にして人間が他の生物になるなど・・・通常ではありえん。」
「まさか、呪いとか・・・・」
「そんな、お伽話じゃあるまいし・・・・。」
リナは身を乗り出した。
「・・・・あんた・・・ホントのほんっっっとおおおおおおに、ガウリイなわけ?」
『お、おお。』
「なんでクラゲの姿してんのよ。」
『し、知らん。わからん。』
「・・・・・・・・・・・。」

テーブルの上のクラゲと、屈んでいる小柄な魔道士が見つめ会う。
数瞬ののち、まるで打ち合わせたように、二人(?)の視線は、テーブルの上にうず高く積まれた皿へと移った。
「・・・・ちょっと聞きたいんだけど・・・・・看板の最後には、なんて書いてあったのよ・・・・?」
『ええと・・・・・』
触手の二本だけが腕のような働きをする。
片方の触手にもう片方の触手を打ちつけ、ガウリイクラゲはとぼしい目鼻でにっこりした。
『そうそう、思い出した!
『食堂』の後に、『全然怪しくない店です』って書いてあったんだ♪』

がた〜〜〜んっっ!!
ぎゅっ!
じたばたっ!

「怪しすぎるわ、んな看板っっっ!!
早く言え、このクラゲ〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!」

椅子を蹴り倒し、テーブルの上のクラゲをひっつかんでおさえつけるリナ。
「リナさん、落ち着いて!!スリッパなんかで叩いちゃダメですぅ〜〜〜!!」
「そうだぞ、リナ!クラゲにクラゲって罵っても、意味がないぞ!」
「ゼルガディスさん、突っ込み所が違いますっっ!!」
『ひいいいいい・・・・・
身をすくませるクラゲ。


楽しい昼食のそのあとは、一気に場が大混乱に陥ってしまった。
 
 




次のページに進む。