「リナの嬉し恥ずかし?結婚物語♪」


あるうららかな、寒くも暑くもない日。
天気予報を得意とする占い師が、『嵐が来る確率100%』と予想したにも関わらず。誰かさんのおかげで見事に晴れ渡った、ある日のこと。

セイルーンのとある教会で、あたし達は結婚した。
え?
誰とかって?

・・・・・・。
ガ・・・・ガウリイに決ってるでしょ・・・っ・・・

(聞こえませ〜〜〜〜んっ)

だ・・・・だから、ガウリイ・・・・

(フォントが小さいから、読めませ〜〜〜〜ん)

ぷちっ!
ううううるさいわよっ!!そこっ!
だからっ!
ガ、ガウリイよ、ガウリイ!!

(くすっ、照れちゃって、リナちゃんてばカワイイ〜♪)

黄昏よりもくらきもの・・・・・・

(うわあああああっ!)




さて。
外野も静かになったことだし。

こほん。

ともかく、あたしとガウリイ・・・は結婚・・・・したのだ。
うん。
あ、あたしは、式なんて恥ずかしいし、めんどいって言ったんだけど。
アメリアがどうしてもってきかないし。
ねーちゃんは、『結婚式ってのは、本人のためじゃなくってその娘を手放す親のためにするもんよ。』なんて、コワイ顔で言うし。
し、しかたなく、その、ね。

教会でやったけど、別に、神に誓うとかそんなんじゃなくて。
場所、借りただけ(笑)
何たって神父の代わりが覆面男だし。
・・・・無茶苦茶あやし〜でしょ?
だってフィルさんがどうしてもやるってきかなくて・・・・。
(親子よね・・・・)
でも仮にも一国の王様が取り仕切る式なんて言うと、余計な客まで来そうだし。
フィルさんなりに気を使ってくれた・・・・のよね、きっと。<覆面装束
うん、そう思おう。

『汝、ガウリイ=ガブリエフ。リナ=インバースを妻とし、愛し、慈しむと誓うか。』
フィルさんの大音声に、ガウリイは。
ちらっとあたしを見て。
フィルさんではなく、あたしの顔を見つめたまま言った。
『誓います。』
誰に誓わなくても。
お前に誓うよと、式の前に言った通りに。
あたしはただ、真っ赤になって暴れ出さないように、我慢するのが精一杯だった。
フィルさんお得意の説教や、参列者達の祝福の言葉、もろもろも、そのほとんどが耳に入っていなかった。
だって。
だって・・・・。

『ここに、二人を夫婦と認める。では、誓いのキスを。』
フィルさんがまた何か言った時も。
ぼうっとして、あたしの耳には聞こえていなかった。
ただガウリイが。
ヘッドドレスのレースを持ち上げて。
いきなり顔を近付けて来たから。
あ・・・・・あたし。
うう。

ばっちいいいいいいいいんんっ!!

『リ、リナ!?』
『あああっ!』
『リナさんてば!!」
『やった・・・・。』

お・・・・・おもいっきし。
ガウリイの顔を。
・・・・・はたいちゃったのよね・・・・・・
あは、あははははははは。

振り返れば、皆の呆れた視線。
あたしは思わず言い訳。
『だ、だ、だってこんな、人前でそんなの、は、はずかし〜じゃないかあっ!』
『何を言ってるんです、往生際が悪いですよっ!』
アメリアなんか立ち上がって怒っている。
うう。

『リナ。』
赤くなった頬をさすりさすり、ガウリイがあたしの肩をつかんでくるっと振り向かせた。
『な、なによ。』
じっと見つめてくる。ちょ。ちょっと恐い・・・・。
そのガウリイが小声で言った。
皆には聞こえない、あたしだけに聞こえるような声で。
『あのな。言うかどうか迷ったんだが・・・。』
『なによ?』
『ブーケに・・・・・何かいるぞ。』

ひえっ!?
何かって・・・まさかっ!?
そおいや、ブーケって生花だしっ!?
まさかと思うけど、それってあたしの大ッキライな●●ク●!?

と。
硬直したあたしに、あいつは堂々とキ・・・・・・・したのだった。
あっけに取られていると、あいつはにやりと笑って。
『やっぱ。気のせいだった。いやあ悪い悪い。』

お・・・・おぼえておれよ・・・・・ガウリイめ・・・・・・。



あたしが緊張でがちがちになっていたのが、わかって頂けただろうか?
え?わからない?
だって。
そうでなければ、ガウリイなんかとっくに空のお星様と化していただろう。
そう。
あたしはただひたすら、一日中を緊張して過ごしていたのだ。

式が終わり、皆で、別の場所に設けられた披露宴会場へ行った時だってそうだ。

各テーブルのキャンドルに、ガウリイと一緒に火をつけて回った。
(これだって絶対イヤだって言ったのにぃ・・・。)
誰かがいたずらをして、キャンドルの芯のそばに爪楊枝を立てて、なかなか火がつかなかった時だって。
あたしは汗笑いを浮かべるだけで。
ガウリイのリードに任せているしか、できなかったのだ。
誰かの陰謀で、何故かガウリイとデュエットで歌わされた時だって。
(あああああっ、思いだすのも恥ずかしいいいいっ!)
歌詞カード(笑)を目で追うのがやっと。
後で思いだして、恥ずかしさにじたばたするようなことを。
よりにもよって人前で。
それでも、呪文で1人も吹っ飛ばすことなく(おひ・・・)、やっていたのだ、あたしは。


何で、そんなに緊張していたのかって?

そ・・・・・それは、ね・・・・・・
ごにょごにょ・・・・






がらがらがらがら・・・・・
きいっ!
ばたん!

「ここが新居ってヤツか・・・・。」
「そ・・・・そうね。」
セイルーンの郊外。
静かな、背後が森に囲まれた小さな家の前に、あたし達は立っていた。
披露宴から追い出され。無理矢理馬車に押し込まれ。
着いた先がここ。

あたし達はしばらく、セイルーンに落ち着くことになったのだ。
取りたてて急ぐ身でもなし、せっかく結婚したんだから少しはゆっくりしたら?とアメリアに勧められて。
二つ返事で喜んだのはガウリイで、あ、あたしは別にどーでも良かったんだけど。
まあ確かに急ぐ用事があるわけじゃなし、ちょっと腰を落ち着けてやりたいこともあったし。
で、御世話になることにしたのだ。

誰も住んでいない家を提供してもらい。
手を加えるよう指図したのは他ならない、あたしだ。
お風呂がなかったので作ってもらったり、まあ他にもこまごまと。
ガウリイは全然、興味がないらしく、その間ずっとゼルと剣の稽古とかしてたけど。
だから、初めて見る家ではない。
でも、こうして二人で家の前に立つと・・・・・

な、なんか・・・・無茶苦茶恥ずかしいんですけど・・・・。


「リナ。」

ぴくんっ。
耳もとで突然囁かれる、ガウリイの低い声。
実を言うとあたしはこれに凄く弱いのだが、今日はまた特別だ。
思わず跳ね上がりそうになる。
すると、本当に体が跳ね上がった。
と、思ったら。
「っきゃっ!?ガウリイっ!?」
いきなり、ガウリイがあたしを抱き上げたのだ。

慌てて見上げると、ガウリイはウィンクをひとつ。
「知ってるか?どっかの国の風習では、花嫁は抱きかかえて新居に入るべしって。」
ひえええっ!?
ガ・・・ガウリイが・・・・んなこと言うなんて・・・・。
驚くあたしを抱きかかえて、家の中に入りながらガウリイが言った。
「オレだって頭を使うことくらい、たまにはあるさ。」
ひいいい。
ガ・・・・ガウリイ・・・・・きょ、今日はやっぱ、何かいつもと違う・・・。
あたしは心臓がばくばくいうのを、抑えることができなかった。


だ、だから。
あ、あたしがこんなに緊張してるのは・・・・ね。
き、聞きたい?
あ、き、聞きたくなんかないよね?ないよね?
じ、じゃあ、この話はお終いとゆーことで・・・・・・

う。

やっぱ、ダメ?却下?
う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。

あの・・・・ね?
あ、あたし達・・・・その・・・ね?
ま・・・・まだなのよ・・・・
え??何がまだなのかって??
さ・・・・察してよ・・・・・(笑)

今まで、そういう雰囲気になった時が、全くなかったわけじゃない。
んで、その時。
あ、あたし・・・・・こ、こわくて、さ・・・・。
んで、勢いついでに『結婚するまでダメ!』って・・・言っちゃったのよ。
そ・・・そしたらガウリイ、しばらく考えてたかと思うと、いきなり。
『結婚しよう、リナ!』よ・・・・。
おひ・・・・。
あんた、何考えてプロポーズしたのよ・・・・・。
とは、思ったんだけど・・・・・。


で、何だかんだで結局、結婚することになって。
あたしの言葉は、ここで大変な意味を持ってきたわけ。
つまり。
『結婚するまでダメ』ってことは、『結婚したらおっけ〜♪』ってことでしょ?
だ・・・・だから。
し・・・式が終わった今日は。
つまりその。
俗にいう・・・・しょやってやつで・・・・・ううう。
だ、だからあっ!
あたしがキンチョーしてるわけ、わかったでしょっ!?




家の中にガウリイが入る。
あたしをだっこしたままで。
新しく内装も変えた部屋の中を見ようともせず、ガウリイは階段を上がり始める。
ちょ、ちょっと待って。
こ、心の準備があ・・・・。
あたしは思わず、ガウリイのシャツをぎゅっと掴んでしまう。

二階に上がり、廊下を歩き。
ガウリイが立ち止まった。
目は閉じていたけど、どこで立ち止まったかはわかっていた。

かちり。
きい〜〜〜〜〜〜〜〜。

ドアが開いた。
寝室のドアが。
ここはあたしも手入れしてない。
職人さんにテキトーにお任せした。
だから何がどうなってるのか、あんまし恥ずかしくて確認してない。
目を開けて、見ればいいのだろうけど。
ダメ。
できない。

ガウリイが屈んだ。
そっと降ろされた。
身体が沈む。
ってことは・・・・やっぱり・・・・

心臓はヒートアップしすぎて、今にもなんだか止まりそう。
どうしていいか、全然わかんない。
誰も教えてくれなかった。
勿論、きく気もなかったけど。

おでこに、柔らかい唇の感触。
ガウリイ?

目を開けると、そこには跪いているガウリイがいた。
部屋は薄暗く、キャンドルがテーブルの上で灯されている。
ガウリイの顔は、影になっていてよく見えない。
でも、確かにここにいるのはガウリイで。
確認したくて、思わず呼んでしまう。
「ガウリイ・・・。」

「リナ・・・。」

うわっ・・・・ガウリイって、こんな声してたっけ!?
な、なんか背中がゾクゾクする・・・・うわ〜〜〜
ど、どおしたらいいのおっ!?
・・・・・なんて、あたしがパニックになってるとゆーのに。
ガウリイの顔が近付いてきて。
あたしはまた、目を閉じる。
ぎゅうっと。



キスは初めてじゃない。
でも、こんなのは。
あたしの頭は、すっからかんになろうとしていた。
必死に物を考えようとしても。
まとめる隙がないのだ。
考える力を、ガウリイが奪っていく。
唇で。
囁きで。
指先で。


・・・・・・って、ちょっとおおおっ!!

「リナ・・・・。」
「ガウ・・・リ・・・・・・。」
「愛してる・・・・。」
「ち・・・・・」
「愛してるよ・・・・。」
「ちょ・・・・」
「リナ・・・・。」
「ちょっっと待って!や・・・・やっぱっ・・・・

ダメえええええっ!!



気がつくと、あたしは叫んでいた。
ぴったりと寄り添っていたガウリイの身体を、何とか傍から離そうとぎゅうぎゅうと押しまくる。
「リナ・・・・?」
「やっぱダメ!ダメ!お願い、ガウリイっ!」
「ダメって・・・・。だってお前・・・・。」
「や・・・やっぱダメ!〜〜〜〜〜こ、恐いのっ!」
「恐いって・・・・。」
「と、ともかくダメ!今夜はダメ、お、お願い、ね?ね?」
「リナ・・・。」
「だ・・・・だって・・・・・。」

何とかガウリイを説得しようとすると、ふいに熱いものが目の中に溢れた。
やだ・・・
あたし、そんなに恐かったってこと・・・・?
だって。
だって・・・・。

ガウリイが、ガウリイじゃない気がしたんだもの。
そう思った途端、恐いのもあるけど寒気がして。
ここにいるのは、確かにガウリイなんだけど。
いつもの、ガウリイじゃなかった。
あたしは、いつものガウリイしか知らないし。
いつものガウリイと、結婚したつもりだった。
でも。


長い沈黙の後、ガウリイがため息をついた。
頭をがりがりと掻いている。
・・・・怒った、かな・・・・。

「わかったよ。・・・リナが、大人になるまで待つ。自然に、オレを受け入れてくれるまで。」
「・・・・ホントに?」
「・・・ああ。ホントだ。」

怒ったのかと思ったのに。
ガウリイは。
ああ、やっぱりいつものガウリイだ。
これが、あたしの知ってるガウリイ。
でもさっきのは、ちょっと違う。

わしゃわしゃと頭を撫でられて、妙に安心するあたし。
そのまま、ガウリイはずっとあたしの頭を撫で続け。
あたしは、ガウリイの胸の鼓動に耳を澄ませながら。

いつのまにか眠りこんでしまった。



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