「リナの嬉し恥ずかし?結婚物語♪」


朝。

目が覚めた。
何だか暖かくて、暗い。
と、思ったら。

目の前にあるのは、人の肌。
えっと・・・・これって!?
ひえっ!?

起き上がったあたしは、隣に長々と寝ているガウリイを発見した。
服は昨日のまま。
シャツは床に脱ぎ捨ててある。

そっか・・・・。
あたし、昨日のまま眠りこんじゃったんだ。
慌ててドレスの前をかきあわせる。

ガウリイを起こさないように、そっとベッドから抜け出した。
初めてだった。
ガウリイの腕の中で眠ったのは。
何故だかとても安心できて、久しぶりにぐっすりと眠ってしまった。
こきこき、と首をならす。
ガウリイの腕枕は、ちょっと高かった。




クローゼットの中には、可愛いワンピースがいくつも入っていた。
こりゃあ・・・アメリアの趣味かな。
とりあえず、着替える。
まだ着替えとか、運び込んでなかったし。
第一、ふつーの服なんて持ってなかったのだ。

キッチンに入ってみると、鍋からお玉から、調理器具は一揃え並んでいる。
どれも朝の光の中、ぴかぴかと光っていた。
試しに戸棚を開けてみると、ちゃんと食材まで揃っている。
しかも。
御丁寧にエプロンまで、ダイニングテーブルの椅子の上にかかっていた。

アメリア・・・・。
あたしのこと、予行演習に使ってないか・・・・?

エプロンをつけ、キッチンをぐるりと見回す。
そっか。
今日から、ここがあたしの砦ってことになるのか。
ほらよく言うじゃない。
主婦の戦場は台所って。
ふつーの奥さんなら、朝起きたら、まず朝食を作って、ダンナに食わして、ダンナを仕事に送りだして、その間に掃除やら洗濯やら。買い物なんかをして一日を過ごすんだろーな、きっと。
ふつーの奥さんなら。

奥さん・・・・・
あれ・・・・・・
あたしも・・・奥さんだっけか?
(かああああああっ)

深く考えると頭から湯気が出そうになったので、とりあえず何か作業に没頭することにした。
つまり、朝食作りである。




時間もかけて、質も量もたっぷりの、豪華すぎる朝食が出来上がる頃。
ガウリイが、ぼおっとした顔で起きてきた。
ぼおっと、テーブルにつく。
あたしは、食事を作っているあいだ、ずっと考えていたことを口に出そうと努力してみることにした。

「あの・・・・・その、き、昨日は・・・・ごめんね?」
ガウリイが顔を上げた。
ええい、がんばれあたし。
言う時は一気に言っちゃった方がいいのよ!
「で、でもね?あの、その、だ、だからってガウリイが嫌いってわけじゃ・・・・ないのよ?」

そう。
あたしは朝食を作りながら、ずっと考えていたのだ。
どうして、昨日、ガウリイが恐くなったのか。
ガウリイが嫌いになった?
ううん、違う。
そうじゃない。
ただ・・・・恐かったのと。
そういうガウリイに慣れなかったこと。
そしてたぶん、緊張しすぎていたせいもあると思う。
ガウリイはああ言ってくれたけど、『結婚するまでダメ』って言ったのはあたしの方なのに、その最初からしてあんな風に断わったんじゃ・・・・ねえ。
と思って。
言いづらかったんだけど。
言うことにした。
今の気持ちを。

ガウリイがいきなり、首をぶるんと振った。
「どうかしたの?」
あたしが尋ねると、ガウリイは慌てて何でもないと答えた。
??なんだろ。
「えっと・・・・。だからね・・・・。だから、もうちょっとだけ待ってくれる・・・・?」
「わかったよ、リナ。お前が落ち着くまで待つから・・・。な?」
そう言うと、ガウリイはテーブルの向こう側から腕を伸ばして、あたしの頭を撫でた。
あたしはその言葉を、有り難く信じることにした。
ホントはガウリイ、その時は無理していたんだってことを、全然知らずに。





そして、あたし達の新婚(・・・)生活はスタートした。
あたしの一日は、こんなカンジである。

朝。
目が覚めると朝食作り。
二人して食べる量が量だから、結構時間がかかる。
式の次の日から、ガウリイは居間のソファで寝ている。
どうしてかときこうと思ったけど、何となくやめた。
夕食の後片付けを終えて、お風呂から出ると、ガウリイは大概もう眠っているのだ。
朝食を作っていると、背後から気配。
おにょれ。
このあたしを誰と心得る!

お玉を持ったまま、くるっと振り向いてやる。
「ガウリイ?んなとこで何してんの?」
ぴきっ!
あ。ガウリイ、固まった。
「い・・・・・いや、べ、別に・・・・。め、めにゅーは何かなっと思って・・・・・。」
何言ってんのよ、アンタの意図はお見通し!
「うそ。つまみ食いしようと思ったんでしょ。あっま〜〜い。おとなしく座って待ってて!」
びしっと、ダイニングテーブルの方をお玉で示すと、ガウリイはとほほと去っていく。
このあたしから、料理をつまみ食いしようなんて、10年早いわ!



朝食を食べ終わったら、ガウリイを仕事に送りだす。
あたしはにっこりと笑って、お弁当を持たせてやる。
実はこれ、朝食の残り。
勢いにのって作ってしまったはいいものの、何故か思ったよりガウリイが食べないので、残ってしまうのだ。
量が半端じゃないので、豪華にも三段重ねになってしまう。
ま、いいよね。勿体ないし。
でもまさか、仕事先でガウリイが、『よ、愛妻弁当!』なんて茶化されてるなんて、あたしは全然知らなかった。

お弁当を渡すと、ガウリイがじっとあたしの顔を見ている。
やば。
バレたかな。
朝食の残りを詰めただけだって。
「ガウリイ?遅刻するわよ?先生が遅刻してどーすんのよ。」
「・・・はいはい・・・・・。」
知らん顔してせかしてやると、ガウリイは諦めたようですごすごと仕事に向った。


さてここで、ガウリイが仕事に行かない日は、洗濯物を手伝わせる。
道場で使う胴衣とか、結構洗濯物が多いのだ。
ガウリイのはどれもでっかいし。
一枚であたしの三倍はある気がする。
それに、調子がいいんだか優しいんだか、生徒の分まで預かってくる時もあった。
それは手伝ってもらわないとね。

「ほらガウリイっ、ちゃんとぱんぱんしてから干してよねっ。シワになっちゃうでしょ?」
「へーへー。」
ガウリイだって傭兵時代は、自分のことは自分でやっていたのだろう、手際自体は悪くない。
でもついつい、口を出して構いたくなる。
だって、洗濯物を持ったまま、ぼおっと景色を見てるんだもん。
あれ??
「やだっ!・・・それっ、あたしのっ!」
「へ?」
ガウリイの手元を見ると、何やら白い小さなモノ。
あたしのだってば、それええええっ!!
「な、なんだよ・・・?」
ガウリイの手からひったくる。
別にしておいたはずなのに、このクラゲ男わ〜〜〜〜!
「ガウリイのえっち!」
怒ると、ガウリイはやれやれと言った顔で、いきなり散歩に行ってしまった。
ああああっ・・・・逃げたな!




ガウリイが仕事に行ってるあいだ。
あたしは、家事を終えると庭に出る。
え?
庭の手入れでもするのかって?
ふっふっふ。あっま〜〜〜〜い。
このあたし、リナ=インバースが、結婚したからといって大人しく家に引っ込んでると思う?
アメリアがしばらく落ち着いて、セイルーンで暮らしてみたら、と言った時。
あたしがしぶしぶながら同意したのにも、訳があるのだ。
それは。
ふっふっふ。

庭のまん中に、目印にもなっている大きな岩がある。
玄関からこちら側は、木が邪魔になって見えない角度だ。
あたしは懐からペンダントを取り出し、封印の言葉を唱える。
それはいわば鍵で。
ごごごごごごおっ・・・・
岩が二つに割れ、中から階段が現れた。
そう。
特別注文の中で、一番費用がかかったのが、これ。
魔法研究用の地下室である。

人さし指の上にライティングのちっこいのを灯して、あたしは階段を降りる。
研究室までは、二重三重のトラップが仕掛けてあり、素人が入ればイチコロである。(おい・・・)
さらに特定の物にしか反応しない、封印された扉を幾枚も通らねばならない。
この場合、それはあたしの胸にかかったペンダントがそうである。

やがて辿り着くのは、古い書物や薬の瓶詰め、秤やランプやその他もろもろの、作業に必要な道具が揃った、まさしく魔道を研究するにふさわしい部屋。
着替えよりも生活用品よりも、あたしが何をおいても運び込んだのは、これだったのだ。
たぶん、ガウリイのボケは気がついてないと思うけど。

いや〜〜〜腰を落ち着けて研究したいことがあったのよね〜〜〜。
イロイロと。
なかなか、旅先ではできないことでもあるし。
中でもセイルーンなら、その手の書物には事欠かないし。
ということで、ガウリイのいない間。
あたしの、趣味と実益を兼ねた楽しい時間は、主にここで費やされるのであった。




そして、夜ともなれば。

ちゃぷん。

「あ〜〜〜〜、いい気持ちっ♪」
お風呂タイムである。
やっぱしお風呂は、広いのがいいわよね♪
ここだけは、地下室の次に手を入れたところなのだ。
広い浴槽、広い洗い場。
し・か・も♪
オトメの夢のお風呂!
そう、温泉をひいているのだ!えっへん!
いや〜〜〜〜セイルーンの街の一部をあたしが吹っ飛ばした後、温泉が出たって聞いた時はびっくりしたわ〜♪
住居をここに定めたのも、ひとつには温泉があったからなのだ♪
は〜〜〜〜〜、りらっくす、りらっくす・・・・

浴槽につかりながら、あたしはふと思いだしていた。
昨日のガウリイ、ちょっと変じゃなかった?


昨日。

あたしがお風呂から出ると、ガウリイはぼおっと居間のソファに座っていた。
テーブルの上には、水を入れ立てのコップ。
もしかしてあたしの為に入れてくれたのかと、有り難く飲んだ。
ガウリイは何故か、無言。
あたしがなかなか渇かない髪を拭いている間も、ずっと黙り込んでいた。
そのうち、急に立ち上がったかと思うと、いきなり家を飛び出して行ったのだ。
何か急な用事でも思いだした、ってわけないしなあ、ガウリイじゃ。
わかんないなあ・・・・。

ガウリイの考えることくらい、何でもお見通しと思ってたんだけど。
最近のガウリイの行動は、よくわからないことが多かった。
いきなり走り出したり、自分の頭をぽかぽか叩いたり。
散歩と言って、よく出かけるし。



何だか、むしゃくしゃする。
このところ、よく眠れないし。
あの寝室で1人で眠るようになってから、どうも寝付けないのだ。
何故だか、ガウリイと一緒に眠ったあの一晩だけだ、熟睡できたのは。
寝不足と、ガウリイの行動への不審とがあいまって。
あたしはかなりイライラしていた。

そんな時だ。
研究費用が心もとないことに気付いた。
そして。
セイルーンからちょびっとだけ離れた山の中で、最近盗賊が出没するという噂をゲットした。
どこでかって言うと、町の市場なんだけどね。
市場って、結構情報収集に向いてるかもしんない。
んであたしの取った行動とは?


ふ・・・・。勿論。
ウサばらしと、研究費用を稼ぐため。
ガウリイが出かけたその隙を見計らって。

久々も久々の、盗賊いぢめにいそいそと出かけたのである!



あ〜〜〜〜ホント、久しぶり。
魔道士の服装も、攻撃呪文使うのも。
もしかしてモヤモヤしてたのって、呪文使って誰も吹っ飛ばさなかったからかしら♪
慌てふためく盗賊達に、ひとつふたつファイアーボールをかますだけで。
あたしはえらくご機嫌になれた。
んでついでにお宝もちょこちょこっと手に入れて。
ふと空を見上げれば、夕方まぢか。

ヤバいっ!
ガウリイが帰ってくるっ!

結婚するちょっと前に、ガウリイに無理矢理約束させられたことがある。
それは、もう。
1人で盗賊いぢめに行かないこと。
実はちょっと危ない目に遭った後だったので、あたしはいちお〜、心配してくれたガウリイのためにも約束を聞き入れたのだ。
でも。
ちょびっとくらい・・・・いいよね?
ストレス溜めて、善良な一般市民を吹っ飛ばすよりか、100万倍もいいっしょ?

というわけで、お宝の山を背負って、あたしは一気に家まで翔風界で戻った。
急いでふつーの服に着替え、装具一式とお宝を庭の地下室に放り込み。
家の中に戻ったと同時にガウリイが帰ってきたのだ。
あたしが息せき切らして出迎えたので、ガウリイはちょっと怪訝そうな顔だったけど、何もきかれなかった。
ほっ。
なんて、こともあったのだ。


でもそのご機嫌な時も一時しのぎ。
無口になったガウリイと一緒にご飯を食べているだけで、またもやモヤモヤが育っていった。
そしてその晩も、あたしが寝付いた振りをしていると、夜中にガウリイが家を抜け出して行く気配がしたのだ。






そんな不可解な一週間が過ぎた頃、アメリアとゼルが訪ねてきた。
どうやらゼルはアメリアに嫌々引き摺られてきたらしい。
アメリアは、『リナさん達のらぶらぶぶりを見せつけて、少しは考えてもらわなくちゃ』とか何とか、ぶつぶつ呟いている。
ゼルも苦労するわ。ホント。


「それで、どうでしたか・・・?」
階段を上がりながら、背後からアメリアが何か言った。
「どうって・・・何が?」
あたしは何の気なしに問い返した。
アメリアはぽっと赤くなりながら言った。
「ですから・・・・・しょ・・・・初夜のことですってば・・・。」

「しょやあああっ!?」

「わあああっ!リナさんっ!しいっ!声、声が大きい!」
「あうっ・・・」

「で、どうだったんですか。だって・・・リナさん達、まだだったんでしょ・・・?」
赤くなりながらも、ダイタンなことをきいてくるアメリア。
ちょっとお〜〜〜〜。
あたしにそーゆー話、する!?
「そ、そんなの、ナイショよ、ナイショ!」
どうも何も。
何もなかったのだから、感想(・・・)など言えるわけがない。
「あ〜〜〜、リナさんてば、照れてるんですか?まったく、結婚したんだからそろそろそういう話にも慣れてもいいじゃないですか。」
「あ・の・ね〜〜〜〜〜〜。」

ごちゃごちゃアメリアがうるさいので、あたしは早々に二階から引き上げ、ゼル達の待つ居間へと降りることにした。
さすがのアメリアも、ゼルの前ではきけまい。
すると、居間の方からガウリイとゼルの話し声が聞こえてきた。

ぼそぼそ。

「お前も同じ男ならわかるだろ・・・・。」
「・・・・。」
「朝、目が覚めるだろ?台所で朝食の仕度をするリナの背中を見る度に、何度抱き締めたくなったことか。洗濯物を干すリナの、細い手首をつかんでそのまま・・・・・・・・と何度・・・・。」

ぼそぼそ。

えええええっ!?
これって・・・ガウリイの声よねっ!?

「仕事に行くオレに手を振って小さくなる姿、夕方戻ればドアまで息を切らして出迎えるあの顔。時間をかけて作ってくれた夕食よりも、沸かしておいてくれた風呂よりも、お前が欲しいと何度言いそうになったことか、わかるか?
 風呂からリナの使うシャワーの音が聞こえたり。
 おやすみを言うリナの、髪からシャンプーの匂いがしたりするともう・・・・。」
「・・・ガウリイ。」
「くそ、嫌がられてもいい、このまま抱き上げて二階の寝室にダッシュだ!と・・・・。ああ、オレはこんなに理性のかけらもない、ただのケモノだったのかと毎日自己嫌悪で・・・。」
「・・・あのな。」
「リナはますます可愛くなるし、はっきり言って、オレはもう限界だぜ・・・・。」


その時、ようやくゼルがあたし達に気付いた。
「ガウリイ・・・・。顔上げろ・・・。」
「へ?」

顔を上げたガウリイと、あたし達の視線がばちん、とあたった。





・・・その晩の気まずいこと気まずいこと。

夕食の席では、会話も途切れがちで。
かちゃかちゃと食器とフォークやナイフがぶつかる音だけがする。
「あ・・・・。」
「な・・なんだ?」
「な・・・なんでも、ない。」

かちゃかちゃ。
かちゃかちゃ。
あれ・・・・・・・?


「リナ・・・・?」
ガウリイが立ち上がり、テーブルを回って傍に来た。
跪くと、あたしの頬に親指で触れた。
あたし・・・・泣いてる?

「ごめん・・・。泣くつもりじゃ・・・・。」

ホントに泣くつもりなんか、なかった。
だけど急に。
静かな食卓を眺めていたら。
勝手に流れてきたのだ。
涙のヤツが。
「あ、あのな?リナ。昼間、オレの言ったことは、ほら、あのさ、ゼ、ゼルと男同士の、ほら、冗談みたいなもんでさ。あ、あんなの本気にするなよな?な?」
ガウリイが慌てて弁解しだす。

そうかな?
あたし、さっきのガウリイの会話が、ショックだったのかな?

「ほ、ほら、わかるだろ?男同士って時々バカな話をするんだよ。オレは、お前に約束したことを守ってるぜ?無理強いは絶対しないし、お前がいいと言うまで待つって。」

なんか、違う。
たぶん、会話の内容にショックを受けたんじゃ、ない。
ただ。

最近、何も話してくれない、傍にも近寄らないガウリイが。
あんなに親しげに。
腹のうちを割って。
ゼルに話し掛けていた、その姿が。
何故だかショックだったのだ。

「愛してるよ、リナ。だから、何も心配するな。な?」

こくん、と頷く。
てへへっと笑う。
「ごめん。そうだよね。ガウリイは待つって・・・言ってくれたんだもんね。あたし、それなのに泣いたりして・・・・ごめん。」
「リナ。」
「もうちょっと・・・もうちょっとだけ、待ってね、ガウリイ。」
「・・・ああ。わかってるよ。」


違う。
ホントは、そんなことを言いたいんじゃ、ない。
あたし。
あたしは・・・・どうしたいんだろう?


その時、ガウリイがあたしの頭を引き寄せた。
繰り返し、髪を撫でている。
あたしはガウリイの腕の中で、ため息をついた。
何だか、すごく久しぶりな気がする。
安心するのって。
やっぱり、ガウリイの腕の中は、安心できるところなんだ。
あたしにとって。

最近、もやもやしていたのは。
安心していなかったから?
結婚する前より、あたし達は別々の時間が多くなった。
一緒にいる間も、何となくぎこちなくて。
あたしは、安心することができなくて、ずっと気を張っていたのかも、しれない。

思っていることを、全て話して欲しい。
ゼルや他の誰かに話すんじゃなくて。
一緒に旅をしていた時みたいに、何も言わなくてもお互いのことがよくわかる、そんな二人に戻りたい。
ガウリイの目があたしの目を覗き込んだ。

キス。
あたしは目を閉じて、それを受ける。
おでこ。
ほっぺた。
唇。

キスすら、恥ずかしくて緊張していた頃があった。
けれど。
今のあたしは、ガウリイにキスして欲しかった。
もっと近付いて。
もっと深く。
隠しているものも、全てさらけ出すような。
自分の感情に素直になれるような。
そんなキスを。


「ガウ・・・リ・・・・」


いつのまにか、あたしは夢中でガウリイにしがみついていた。
恐いとか、そんな感じは全くしなかった。
でも。


「ごめんっ・・・・」

いきなりそう言うと、ガウリイは急に身を離し、立ち上がった。
あたしを押し退ける手は、強い力がこもっていた。
あたしは、ぺたん、と床に座り込む。
「おやすみっ・・・!」

素っ気ない、一言。
ガウリイはそれだけ言うと、台所へと向うドアの向こうに消えた。
追うな、と背中が言っていた。
あたしはどうしていいかわからずに、床の上に座り込んだまま。


あたし、ホントはどうしたい?
ガウリイ、ホントはどうして欲しい?

わからないことだらけで。
わからない気持ちばかりで。
胸が苦しくて、しりもちをついたお尻が痛くて。
あたしはよろよろと立ち上がった。
二階の寝室へと向う。
他のどこにも、行く場所はなかった。

部屋に入ると、大きなベッドがあたしを嘲笑っていた。
奥さんになれない、奥さん。
1人でここで眠る奥さん。
こんな大きなベッドはいらないんじゃないかい?と。

ベッドを無視し、窓から月を見上げる。
そして。
森の中へ入って行くガウリイを目撃することになったのだ。



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