「ガウリイの血と汗と涙の!?結婚物語♪」


朝。
オレは居間のソファで1人目を覚ます。

リナは当然寝室。
とても隣に寝てはいられなかったからだ。
一晩中、リナの甘い吐息に耳を澄ませ、押し付けられる身体の柔らかさと温度にクラクラし、二晩目でオレは部屋を飛び出したのだ。
ソファでもぐっすりと眠れはしない。
階段を上がればすぐ、ベッドの上で眠るリナがいる。
同じ屋根の下にいるかと思うと、いてもたってもいられない。
・・・生殺し以外のなにもんでもねえ・・・・・。

ぼおっとした頭で顔を洗いに行き。
戻ってくるとリナがキッチンで朝食の仕度をしている。
朝の爽やかな日射しの中、白いエプロンをまとってくるくるとよく動くその後ろ姿を見ていると。

くっ・・・・・。
抱き締めてぇ・・・・・。

思わずそろそろと近付くと、突然、お玉を持ってくるりっと振り向くリナ。
「ガウリイ?んなとこで何してんの?」
ぴきっ!
「い・・・・・いや、べ、別に・・・・。
め、めにゅーは何かなっと思って・・・・・。」(だらだらだら)
「うそ。つまみ食いしようと思ったんでしょ。あっま〜〜い。おとなしく座って待ってて!」
びしっとお玉をつきつけられ、オレは力なく笑う。

つまみ食いしたいのは、朝メシじゃねーよ・・・・・。



仕事へ行く。
街の中心部にある道場で、子供に剣術を教えるのがオレの当面の仕事先だ。

「ハンカチ持った?ちり紙は?定期は?」(あ、間違った・笑)
↑訂正↓
「はい、これ。おべんと。」
照れながらも、差し出されるのはリナの手作り愛情弁当だ。
豪華三段重ね。
オレは有り難く受け取り・・・。
リナの顔をじっと見る。
「?何か忘れ物でも?」
リナはきょとんとして、早く行かないのかと言った顔だ。
「ガウリイ?遅刻するわよ?先生が遅刻してどーすんのよ。」
「・・・はいはい・・・・・。」
おい・・・・。
『行ってらっしゃい、あ・な・た(はぁと)』のキスは・・・・・?


仕事がない日は、リナが洗濯物を干すのを手伝わされる。

「ほらガウリイっ、ちゃんとぱんぱんしてから干してよねっ。シワになっちゃうでしょ?」
「へーへー。」
意外にも、リナのやつは家庭的だ。
ちゃんと家事をこなしているところを見ると、思わず感心してしまう。
そういう時のリナの顔は、ちゃんと女の顔をしていて。
オレは洗濯物を持ったままぼ〜〜〜っと見とれてしまう。
「やだっ!・・・それっ、あたしのっ!」
「へ?」
リナが物凄い勢いでオレの手から洗濯物を奪い取る。
「な、なんだよ・・・?」
どうやらリナのぱんつだったらしい。
あんまり色気のないヤツだったので、気付かんかった。(おい・・・・)
リナが赤い顔をして睨んでいる。
「ガウリイのえっち!」
・・・・あのな。
オレは今んとこ、そーいうもんじゃなくって中身の方が・・・・。

いかんいかんいかん!
朝から妄想君になっている自分の頭をぽかぽかするオレ。

辺りを見回せば、人気のない家の周囲。
回覧板を持って行くのがちょっとしたお散歩になりそうな、お隣さん。
よく手入れされ、ふかふかの芝生の庭。
洗濯物を干すリナの、白い手首。
それをつかんで・・・・・

いかんいかんいかんっ!
だ、ダメだっ!

突然オレは森の方向へと走り出す。
背中にリナの声。
「ガウリイっ?どこ行くのっ?」
「散歩!」

・・・妄想のせいで頭が爆発しそうだなんて、言えるわけねーだろ・・・・。

オレは昼ご飯の時間まで、森の中をランニングして過ごした。
余ったエネルギーは運動で昇華するって、誰かが言ってたっけ・・・。
むなしひ・・・・。


そして、夜ともなれば。

ちゃぷん。

リナの特別注文とかで、この家の風呂は結構でかい。
オレが身体を伸ばしてゆったりと入れるくらいだ。
・・・二人で入っても余裕だぞ・・・・。
1人呟くオレの耳には、風呂の方から水をはねかす音。
しん、とした家の中に響くように聞こえる。

訳もなく胸がドキドキしてきた。
咽がやたらと渇く。
今、リナが1人で風呂に・・・・・。

ふらふらと立ち上がりそうになる。
慌てて、自分に言い訳。
「の、咽が渇いたなっと。水でも飲んでこようかなっと。」
くそ〜〜〜〜〜。
情けないぞ。オレ。


「あ〜〜〜〜〜、いいお湯だったっ♪」
頭を拭き拭き、リナが出てくる。
「お待たせっ。ガウリイも入ってくれば?いい湯加減よ。」
「あ・・・・ああ。」
生返事のオレ。
ソファの後を、リナが通る。
ふわん、といい匂い。
テーブルに乗った、水の入ったコップを見つけると、リナは嬉しそうに言った。
「もしかして、これ、あたしの?」
「え?あ・・・・ああ。」
「さんきゅー、ガウリイっ♪」
向いのソファに座り、こくこくと飲み干す。
顎が上がり、細い咽をさらす。

ばくばく。
心臓は、今やどきどきではなく、ばくばく。

誰かがお祝にくれたピンクのタオル地のバスローブを、文句を言いながらもリナは着ていた。
それからのぞく露出した肌は、風呂で温まってうっすらとピンクづいている。
こちらのソファにまで、温度が伝わってきそうだ。
「ぷは。美味しかった♪ガウリイ、ありがと。」
素直に礼を言うリナに、何故だかオレの方が照れてしまう。
「い、いや。」
「あったま、なかなか乾かないわ。少し伸ばしすぎたかなあ?」
と言うと、持ってきたタオルでまた髪を拭き始める。
「そんなこと、ないだろ・・・・・。」
ぼおっとオレ。

湯上りにバスローブで、髪を拭く・・・・・・。
もしかして、オレを誘ってんのか・・・・?
胸の中に黒い喜びが湧き出てくる。
が、しかし。
すぐにそれはぷしゅっと消えるのだ。
リナがそんなこと、するわけねーだろ・・・・・。

だがこのあまりにも美味しすぎる状況を。
どうやって乗り越えろとゆーんだああっ。
湯上りのリナ・・・・
石鹸の匂い・・・・
濡れた髪・・・・
あったかそ・・・・・

うおおおおおおっ!

オレはリナの止める声も聞かずに、家を飛び出した。
あれ以上、あの場にいたら、オレは間違い無く・・・・・。
いかんいかんいかんっ!
森の中へ走り込んだオレは、開けた場所を見つけ、おもむろに・・・・


片手腕立て200回。
腹筋200回。
ランニング30km。
を1セットとし・・・・・・
黙々とこれを続けたのだ。






「やつれたな・・・・。」
「ほっといてくれ・・・・。」
疲れた声でオレは答える。
結婚式から一週間。
アメリアと一緒にお祝を持って訪ねてきたゼルの一言だ。

「目の下にクマが出とるぞ・・・・。」
「睡眠不足なんだ。」
「そうか・・・。ごほん。それは円満で何より・・・。」
赤くなったゼルが何かぶつぶつ言っている。
リナはアメリアに家の中を案内していて、部屋にはいない。
「違う・・・。」
思わず呟くオレ。
「何が違うんだ?」
「だから・・・・。夫婦が円満で睡眠不足なのと、違うと言ってるんだ・・・。」
「・・・・・なに!?」

ずるっとゼルが椅子から滑り落ち、視界から消えた。
ごつっ!
ざくざく!
・・・・おいおい。
人んちの床に、傷つけんなよな・・・・。

「ゼルガディス・・・?」
しばらくして、頭をさすりながらゼルがテーブルの下から現れた。
「ど・・・・どういうことだ、ガウリイ。」
「どういうもこういうも。そのまんまさ。」
「って・・・・まさか・・・・お前達・・・・?」
「そのまさか。」半分、オレはヤケ気味に答える。
「・・・・ってお前!もう式から一週間は経つんだぞ!?それでまだってどういうことだっ!」
ば〜か〜や〜ろ〜お。
んな大声出すなよ・・・・。



「・・・という訳だ。」
「そうか・・・・。」

ゼルはオレの話を黙って聞いていたあと、頷いた。
「それは、なんて言うか。気の毒に、とでも言おうか。」
「やめてくれ・・・。」
「あ、ああ。悪かった。しかしな・・・・。
お前のことだ、俺はもう、結婚前にとっくに・・・。」
「オレのことって何だよ。とにかくリナは最初、『結婚までダメ』って言ったんだ。」
「それで律儀にもそれを守ってたんだな。」
「ホメてんのか、けなしてんのか。」
「両方だ。気にするな。」
「・・・・・。とにかく結婚はしたし、これで晴れて・・・・と思った矢先がこれだ。」
「それでそんなにやつれてるのか・・・。」

オレは思わず頭を抱えるしかなかった。
「お前も同じ男ならわかるだろ・・・・。
一つ屋根の下、夢にまで見たリナとの新婚生活が、これほど辛いとは・・・・。」
「・・・・。」
「朝、目が覚めるだろ?
台所で朝食の仕度をするリナの背中を見る度に、何度抱き締めたくなったことか。
洗濯物を干すリナの、細い手首をつかんでそのまま・・・・・・・・と何度・・・・。
仕事に行くオレに手を振って小さくなる姿。
夕方戻ればドアまで息を切らして出迎えるあの顔。
時間をかけて作ってくれた夕食よりも、沸かしておいてくれた風呂よりも、お前が欲しいと何度言いそうになったことか、わかるか?
風呂からリナの使うシャワーの音が聞こえたり。
おやすみを言うリナの、髪からシャンプーの匂いがしたりするともう・・・・。」
「・・・ガウリイ。」
「くそ、嫌がられてもいい、このまま抱き上げて二階の寝室にダッシュだ!と・・・・。
ああ、オレはこんなに理性のかけらもない、ただのケモノだったのかと毎日自己嫌悪で・・・。」
「・・・あのな。」
「リナはますます可愛くなるし、はっきり言って、オレはもう限界だぜ・・・・。」
「ガウリイ・・・・。顔上げろ・・・。」
「へ?」

途端にオレは固まった。
ドアの脇に、二階から降りてきたアメリアとリナが、顔を赤らめて立っていたからだ。

・・・・・がっちょ〜〜〜〜〜〜ん。





・・・その晩の気まずいこと気まずいこと。

夕食の席では、会話も途切れがちで。
かちゃかちゃと食器とフォークやナイフがぶつかる音だけがする。
「あ・・・・。」リナが何かを言いかけた。
「な・・なんだ?」どもってしまった。
「な・・・なんでも、ない。」
なんだ。

かちゃかちゃ。
かちゃかちゃ。
あれ・・・・・・・?

静かに食べているリナの目から、ぽろんと何かがこぼれた。
涙だ。

オレは椅子から立ち上がり、テーブルを周り、リナのすぐそばへ跪く。
「リナ・・・・?」
手を伸ばし、親指で涙を拭ってやる。
「ごめん・・・。泣くつもりじゃ・・・・。」と、リナ。
これはやっぱり、さっきのがよっぽどショックだったに違いない。
オレは慌てて弁解しだす。
「あ、あのな?リナ。昼間、オレの言ったことは、ほら、あのさ、ゼ、ゼルと男同士の、ほら、冗談みたいなもんでさ。あ、あんなの本気にするなよな?な?」
ぽろん。
もうひと粒の涙。
「ほ、ほら、わかるだろ?男同士って時々バカな話をするんだよ。
オレは、お前に約束したことを守ってるぜ?無理強いは絶対しないし、お前がいいと言うまで待つって。」

ぽろんぽろっ。
誰か、この涙を止めてくれ。頼むから。
「愛してるよ、リナ。だから、何も心配するな。な?」

こくん、と頷くリナ。
てへへっと笑う。
「ごめん。そうだよね。ガウリイは待つって・・・言ってくれたんだもんね。
あたし、それなのに泣いたりして・・・・ごめん。」
「リナ。」
「もうちょっと・・・もうちょっとだけ、待ってね、ガウリイ。」
「・・・ああ。わかってるよ。」

つくづく。
男とは、バカな生き物だ。
今すぐにでも押し倒したいくせに。
やせ我慢ってやつを、しちまうんだからな。


リナの頭を引き寄せた。
不安を消すには、触れてやるのが一番だ。
柔らかな髪を繰り返し撫でてやる。
腕の中で、リナが安心したようなため息を漏らす。

我慢に我慢を重ねていたため、オレはずっとリナに触れていなかった。
少しでも触れれば、そのまま軽くリミットをぶっち切りそうだったからだ。
こうして触れてみると。
やはり、それは真実で。
離さなくてはいけないと思いつつ、離すことはできそうになかった。

腕を少しずらし、リナの瞳を覗き込む。
リナの目は何かを訴えているように見え、それが何なのか急に知りたくなる。
だがそれは恥ずかしそうに閉じられ、誘い込まれるように目蓋にくちづけた。
おでこに。
頬に。
唇に。
リナはじっとしている。

オレは優しく甘いキスを、と心掛ける。
自分でも気付かないうちに、それが次第に深くなり。
いつのまにか夢中でリナを抱き締めていた。

「ガウ・・・リ・・・・」

吐息のようなリナの声で、オレははっと我に返った。
〜〜〜〜いかん。
いかんいかんいかん!おい、オレ!
さっき、約束したばっかりだろ?

オレは慌ててリナを放す。
ちょっと乱暴だったかも知れない。
だがリナを思い遣る余裕はなかった。
「おやすみっ・・・!」
そして立ち上がり、ドアを閉めて部屋を出た。
やがてリナが階段を昇る音がして。
真っ暗な台所で息を殺していたオレは、物音を立てないように静かに、だが急いで、家から飛び出した。


今晩は何セットやれば、リナの顔が頭から消えるだろうか?





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