たたかうお嫁さま

 

ちーーーーーんじゃらじゃらじゃら

「本日開店!出玉無制限!ちょっと寄ってかないかい、あんちゃん」

「・・・なんですか、これ」
おっさんにあんちゃん呼ばわりされた人物は、興味を誘われたように立ち止まった。
「なんでも旧世界から持ち込まれた謎の魔道具らしいんだが、このちっこい鉄の玉がからくりの中に入ると、ある法則のもとにたくさんに増えて出てきたり、逆にからくりに食われちまったりと面白い仕掛けなんだよ。
こう、ここんとこの花の中にうまく入ると、いっぱい出るんだそうだが。」
「へえ、魔道具ですか」
「どうだい、あんちゃん、手持ちの金を増やしちゃどうだい。金と、この鉄の玉っころと交換だ。」

ぴろぴろぴろぴーーーー。

ぴろぴろぴろぴーーーー。

「お客さん、もしかして梁◯泊のひと?もう打ち止めだよ」





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(開幕)

ところ変わって、とある地方都市。町中のいわゆる大衆食堂。
ちーーーーんじゃらじゃらじゃら。
今度はからくりの音ではない。

「ちょっっとガウリイっ、それあたしが目えつけてたのよっっっ!」
ガウリイが抱えて食べているスパゲッティの皿を、リナがフォークとナイフで引き戻そうとしている。
テーブルの上の食器やカトラリーが派手な音をたてていた。
「ふぁんだよ、ひひやなひか。もぐもぐ。先に 食った方が勝ちだぜ」
「あーーーーそう。んじゃ・・・」
ひきつった悪魔の笑みを浮かべながら、リナはその細い腕で丸テーブルをやにわにひっ掴むと
「うわあぁっっっ、リナ、それだけは止めろ、お、オレがわるかったああっ」
ガウリイの悲痛な叫びをよそに、テーブルがリナの口に向かってかたむいた。

 「あのぅ、もし。」
 「あ?」椅子の上に片足をのせて今しもテーブルの上の物をすべて口に納めようとするこの光景に、ひるむことなく近寄った人物がいた。
 「仕事をさがしていらっしゃるとお聞きしたのですが。」
 「まあっ。はいはいはい、さがしていらっしゃってましたぁ♪」
わけのわからない敬語を並べてあわててその場をとりつろうリナ。
ふと、忘れていたことに気がついてぽいっと両手の中の物を放り出した。
  
どがしゃあああああああん。背後でものすごい音と、かすかな悲鳴を聞いたような気もするが、気にしない。
 「で、どんなお仕事なんです?裏山のレッサーデーモン退治ですか?屋根裏 から呪いのかかった剣でも出ましたか?」
 肉体労働と頭脳労働と別れているあたり、この二人である。
「実はちょっと込み入ったお願いなのですが・・・
私の家まで来て頂けますか?」



 「・・・・・で、」
あちこちにレースやフリルのたくさんついた青いドレスを着たリナが、我慢の限界という声を出した。

 「どーーーーーーしてあたしが、お嫁さんになんなきゃいけないのよっ!?!?」
 耳でみごとな真珠のイヤリングが揺れている。

「ですから、私の母が余命いくばくもないことはお話しましたよね。
わたしはなんとしてでも、母に最後の思い出をプレゼントしてあげたいのです。」
「だから、何でプレゼントがあたしなのよ?」
 今にもかみつかんとするリナの形相を前にしても、食堂の時と同じように動じる気配もなく依頼人は答えた。髪に白いものが混じってはいるものの、かなりシブめの中年の男性だ。

 「母は、枕元でしきりに孫に会いたいと申すのです。
まだ赤ん坊の時に町を出ていってしまった私の姉の子供を、いちばん気にしていたのです。ところが、姉とともに孫は遠いところで流行り病にかかり、半年前に亡くなってしまいました。生きていればちょうど、あなたぐらい・・・。しかも結婚していたことを知りました。
ですから、その孫になって、母に会って頂きたいのです。」
 「・・・なあ、リナ、ちょっと可哀想な話じゃないか。
引き受けてやったら?
どのみち、オレたち仕事して金もらわないと、次の町まで行けないぜ?」
「だからって・・・」
リナの震えは止まらない。
「なんでこの男がダンナなのおおおおおおおお!?」


 当のガウリイはベージュのスーツに身をつつみ、屋敷の小間使いらしき女性に青いネックチーフを巻いてもらっている。食堂でこの屋敷の主人から依頼の内容を話すからと、郊外の邸宅までついてきたら突然この有り様だった。
リナが招かれるままにほいほいとあがりこんだのもしょうがないと言えばしょうがないのだが、無理もあるまい。一目で金がうなってそうなお屋敷だった。
「・・・」
室内の豪華な調度品に目を奪われながら、それでもまだ迷うリナに主人がたたみかけた。
「なに、たった一週間でいいのです。お礼はたっぷりといたしますから」
 「・・・しょうがないわね。」しぶしぶリナは承諾した。




 「はじめまして、おばあさま。キャサリンです。」
「まああ、よく帰ってきてくれましたね。会いたかったのですよ。よく顔を見せて頂戴。
・・・ああ、やっぱり、娘に似ているわね・・・」
花嫁はひきつっていた。
「お母さんが病気と聞いて、遠い町からわざわざ訪ねてきてくれたんですよ」
「まあ、リチャード、あなたが探してくれたのね、あなたは町一番の孝行息子ですよ。
・・・おやそちらの方は?」
 「キャサリン、紹介しなさい」
屋敷の主人、リチャードはしゃあしゃあとリナを促した。
 「...はい」リナのぶりっこもこういう時には役に立つ。

 「わたし、結婚したんです、おばあさま。
こちらはしゅ...主人のガウリイです。」
「どうも、はじめまして。リ・・・キャサリンのおばあさま。」
ガウリイが何故本名のままかというと、たぶん他の名前で呼ばれても気付かないから、というのが最大の理由である。
 「まあ、キャサリン、しばらく会わないうちにすっかりいい娘になっていたのね。」
長患いのせいか、やせ細った、それでも優雅に見える手をのばし老婦人はリナの髪に触れた。
「しかもこんないい旦那様まで。ほほほ。
なかなか、男性を見る目があるようですね。」
そう言ってベッドの上で、はかなげに微笑した。
 何故か赤面したリナのうしろから、リチャードが言った。
「今日から一週間、キャサリンには屋敷に滞在してもらって、あなたの身の回りのお世話をさせます。」
「まあ、うれしいこと。」

 んなにいいいいいいいい?


 

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