「ある『子供』とその『保護者」保護者さいど♪


「おーい、リナぁ」
ガウリイが、自分よりも長さの短い足を精一杯動かしながら歩いていく後ろ姿に、なんなく追いつきながら、いつもの調子でのほほんと呼び掛ける。
「なによ」
応えながらも足の動きは止めない。
それどころかより素早く動かそうとしているようにも思われる。
「なんでそんなに急いでんだ? 次の街ってそんな遠いのか?」
そんな様子の彼女の隣に並びながら、やや険しくなったその顔を覗き込んでみる。
「・・・別に。そういうわけじゃないわよ」
その視線を直視しないよう、ぷいと横を向いてしまう。
ガウリイはその彼女の態度に、少し疑問を抱いた。
リナがとる行動には、いつも何らかの理由がある。その理由の重要度は極めて高いときもあれば、低いときもあるが。
ガウリイは、また、リナがいつものように一人で何かを抱え込んでいるのではないかと、心配になった。
つまり、その重要度がやや高いと判断したわけだ。得意の野生の勘というやつで。
「・・・・・・どうしたんだ?」
ゆっくりと、優しく問い掛けてみる。
いつもなら宿屋で夜、落ち着いた時にやる演出なのだが、今は街道、しかも昼間、その上二人ははたから見ればものすごいスピードでずんずん歩いているから、少し変なムードさえ感じさせる。
この状況でゆっくりお話、というのには普通なら無理があったが、ガウリイにはその自他ともに認める自慢の体力により、可能だった。
一方リナは険しい顔付きで足のスピードをゆるめる事はない。
まるでガウリイを引き離そうかとしているかのように。
「特にどうしたもこうしたもないわ。ただ、少しばかり急いでいるだけよ」
少しどころか、リナの額にはうっすらと汗がにじみ、十分な酸素を求めて息は荒い。
こんな行動を、リナが唐突にやりだしたのは今日の・・・確か宿を出てからだ。
その前も、少し不機嫌だった気がするが、ガウリイは覚えていなかった。
リナにはもう、充分すぎるほど疲労の色が濃く出ていた。
しかしおそらく、このまま放っておけばリナは倒れるまで歩き続けるだろう。
その事にガウリイは容易に気付いていたし、それも彼に心配させる原因のひとつであった。
「急いでるって・・・なんでそんな無理するんだ」
「無理なんかしてないわ」
「嘘つけ。・・・疲れただろう? そこの木陰とかで休もう。な、リナ」
優しい口調で言って激しく動かすリナの腕を取る。だが、リナは尚も懸命に進もうとする。
「リナ」
「休むつもりないから」
リナは決してガウリイに視線を合わそうとせず、しかし、その腕を振り解こうともせず、ただ、前を見つめて歩こうとする。
そのリナの様子に、ガウリイは顔をしかめた。
「・・・お前さんはいつもそうだ」
突然、静かな口調でガウリイがつぶやく。その腕をそっと放して。
「オレたちは、二人で旅をしているんだぞ、リナ。二人で。
リナ一人じゃない。オレ一人でもない。二人だ」
「・・・・・・知ってる」
「いいや。リナは分かってない」
「何が」
「・・・・・・・・・。
オレは、お前の保護者だよな」
「自称でしょ」
突き放したリナの口調。
「だが、保護者は保護者だ。オレはずっとお前の傍にいるから。もう決めたから。
なぁ、このことお前・・・知ってたか?」
その、ガウリイの意外な言葉を聞いて、少しだけ驚いたように、そして俯いてリナは返す。
「知るわけないでしょ? あんたは・・・言葉にしないから。何も」
ガウリイは大きく息を吸い込んだ。
「なら、今日は言いたい事を言っとくぞ。
・・だから・・・リナには分かって欲しい。オレがずっとお前の傍にいるってこと」
「・・・分かれって言われても・・・」
リナは少し困った顔をする。
「勝手に決めてすまんな」
ガウリイの申し訳なさそうな口調に、リナが思わず俯いていた顔を上げる。
いつしか、リナの歩調は緩やかになってきていた。
普段、自分の気持ちを言わないガウリイの、意外な言葉の数を心に刻むために。
「だから。な、リナ。ちょっと休もう」
「何がだからなのよ・・・」
「頼む」
その言葉に、リナの足が止まる。
ゆっくりと、初めてガウリイの顔を見上げる。
「ちょっとでもいいから。休もう。リナ」
また、そっと腕を引かれる。やはり抵抗はしない。が、リナは真剣な顔付きで言った。
「あたしが急いで、次の街に早く着くはずだった時間の穴埋めは、どうしてくれるのよ?」
ガウリイの目が丸くなる。そしてふっと笑う。
「本当に、何かワケありで急いでたんだな」
「当たり前でしょ? あたしが意味も無く疲れるマネするわけないじゃない」
「そっか」
ガウリイが言って、優しくリナの頭をぽんぽんと叩く。
リナはそのガウリイをじっと見つめて、小さく、本当に小さく言葉を漏らした。


「ちょっとした、反抗ってやつよ」


「え?」
リナは心の中だけでガウリイに向かって舌を出す。
「何でもないわ。で、どうやって責任をとってくれるの?
早くふかふかのお布団でお昼寝がしたかったっていうのに」
「お前さん、そんな理由で?」
「そんなとは何よそんなとは! あたしにとっては大事よ。
ここんとこ嫌な宿屋ばっかりでさ、布団は安物だわベッドはなんとなく堅いわお世辞にもいい雰囲気とは言えないわ、とにかくそろそろ我慢ならなかったのよ!
今日くらいは早目に着いて、ちょっとばかし出費がかさんでもいいから良い宿が取りたったかったの!」
「まあ確かに最近そういうところが多かがするが・・・」
リナはとりあえずガウリイの何とも言えない表情を無視しておく。
「で? どうしてくれる気?」
ガウリイは少しだけ考え込む。
ふいに吹いた風が、二人の髪を撫でていく。
「分かった。こうする」
言うなり、ガウリイはリナの体をひょいっと抱き上げる。いとも簡単に。
「きゃぁっ! わわっ、ちょっとガウリイ何すんのよっ!?」
ガウリイの腕の中で、リナが悲鳴のような声を上げる。その頬が瞬時に赤く染まる。
「相変わらずテレ屋だな、お前」
ガウリイがその様子をにこにこ顔で見つめる。なぜか嬉しそうに。
「テレ屋って・・・・・・そういう問題じゃなぁぁぁぃっ!!
降ろしてよっ! 何で抱っこする必要があんのっ!?」
それを聞くと、ガウリイは意外そうに目を丸くする。
「何でって・・・リナが言ったんだろ。責任とれって。
責任とって、オレがお前さんを抱えて街まで行ってやるよ。
大丈夫、オレ、足早いから」
「何が大丈夫なのよっ!」
頬を赤くしたまま、リナが叫ぶ。それに構わずガウリイはリナを大事そうに抱えたまま歩き出す。
その行動にリナが慌て出す。この調子では、街に入るまで・・・いや、おそらく宿が見つかるまでこの格好だ。
それでは恥ずかしすぎる。
「や、休むんじゃなかった? 木陰とかで」
リナがガウリイに抱きかかえられ動揺した頭を懸命に働かせ、打開策を見出そうとする。
だが、それを知ってか知らずかガウリイは、リナの間近になった顔に向かってにっこりと笑うと、
「それじゃ遅くなるだろ? 宿も良いのが見つからんぞ。
ずーっと抱っこしといてやるから、お前さんはオレの腕の中で休んでな」
ガウリイはそんなことを言う。
リナはその言葉を呆然と聞いていたが、はっと気付いてガウリイの顔をまじまじと見る。
「ちょっと待てぃっ! あんた目が笑ってるわよっ!! 楽しんでるでしょこの状
況っっ!!!」
「ははは。なぁぁに言ってるんだリナ、そんなことないって」
「こぉの嘘つきぃぃぃぃぃぃっっ!!!」
完全にからかわれているのを感じて、それでもいくらガウリイの腕の中で暴れてもその腕にがっちりと捕まれて、リナはただ、声の限りに叫んだ・・・。






それでもやがて、やはり歩き疲れていたのか、それとも暴れつかれたのか叫びつかれたのか、リナはガウリイの腕の中で静かな寝息をたてていた。
そのリナの顔を覗き込み、その安らかな表情に笑みをこぼし、ガウリイは街道に沿って歩いていった。



「忘れるなよ。オレはお前の保護者で、ずーっと傍にいるけどな、一応男でもあるんだぜ」
それでも保護者の域からはなかなか脱せないだろうな、と考えながら、ガウリイは静かにリナの頬に唇を寄せた。





===========================================END
ガウリイに、リナを抱っこさせよう!
・・・と思い付いたのが始まりで、
いつの間にやらリナが反抗期の子供になってました(^^;)。
まったく。難しい年頃です(笑)。

もとは三人称のだけだったんですが、やはりそれだけではリナが何を思って行動に及んだのか分かりませんから付け足しました(笑)。

性懲りもなくやりました。
そしてまたいつか投稿するかもしれません。

その時はよろしくお願いします♪

それではまた(^^)

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