「クリスマスプレゼント」リナさいど♪


「うーん、これはもしかして」。
ここんとこ、あたしは体調が少し悪かった。
何となくだるくて呪文を唱えても思ったように力が発動しない。
<疲れがたまってるのかな? 
今受けている仕事が片づいたらちょっとのんびりしよう>。
と考えていたのだが、
 
「わーっ、ゼルガディスさん見てみて、かわいい赤ちゃん。
私もこんな可愛い子どもが欲しいです」。
「何言ってんだアメリア! 子どもがこどもを育てられるか。
だいたいお前は正義のヒーローになるんじゃないのか」。
「もちろん。正義のヒーローにもお母さんにもなるんです。
そして、親子で世界に正義の炎を広めるんですよ」。
「あのなぁ」。
 
 
夕飯時に、宿屋の赤ちゃんを見てじゃれあっていたアメリアとゼルの話を
聞いて原因に思い当たってしまった。
「もしかして、もしかして……、あたし赤ちゃんができた…」。
 
「リナ愛してる」。
「あたしも……あ、あいしてる」。
偶然アメリアとゼルと再会するまでに、あたしとガウリイは
俗に言う恋人の関係になっていた。
何となく照れくさくて二人には何も言っていないのだが。
 
 
「違うかもしれないし、でも」。
頭に血が上り、ベットの上でジタバタしていると
「おい、リナ。何やってんだお前?」
「えっ、ガウリイあんたいつの間に部屋に入ってきたの」。
びっくりして顔を上げるとベットのすぐ脇にあきれた顔をして
ガウリイが立っていた。
「ドア開いてたぞ不用心だな。それよりお前、何一人で暴れてたんだ?」
「そ、それは……」
ガウリイの子どもができたかも、なーんて恥ずかしくて言えない。
言えるはずがない。
本当かどうかもわからないし。よし、ごまかそう。
「食後の運動よ」。
「はぁー」。
何とも言えない顔をしているが、それ以上深くつっこんではこない。
よし。
「ところでガウリイ何か用なの」。
すかさず話題を転じる。
 
 
「ああ、さっきゼルと話したんだが明日の盗賊団のアジト探しは
俺とゼルとでするから、リナとアメリアは休んでていいぞ」。
「なんでよー、4人で受けた仕事なんだし行くわよ。それに盗賊と遊ぶのは
あたしの生きがいなんだからね」。
「だってお前、体調悪いだろ。明日はゆっくり休めよ、
無理しないでくれ」。
ちょっと困ったように微笑んで、優しくガウリイが言う。
気づいてたんだガウリイ……。
「わかったわよ」。
ぼそっと言ったあたしに
「ちゃんと早く寝ろよ」。
嬉しそうに頭をなでる。そして、いつの間にか習慣になってしまった
おやすみのキスをして部屋をでていった。
 
 
「リナさん! どこに行くんです。寝てなきゃだめじゃないですか」。
びくっ。一夜明けて、ガウリイとゼルが出かけたのを確かめた後で
こっそり宿から出かけようとした途端
あたしの背後から怒ったような声がかかった。
「ガウリイさんが心配しますよ」。
おのれ、アメリアを残したのはあたしを見張らせるためだったか。
「ア、アメリア。あたしちょっと用事があって」。
「ダメです。ガウリイさんに頼まれてるんですから!」
ああ、もうしかたない。こうなったらアメリアに言うしかないわね。
「あのねアメリア、あたし病院に行きたいの。そのあたし…………」。
「リ、リ、リナさーーーーーーーーん! 本当ですかーーーーー」。
「お願い、静かにして! アメリア落ちついて」。
直後、あたしは目を丸くして叫ぶアメリアを羽交い締めにしなければ
ならなかった。
 
 
 
「おめでとうございます。リナさん! 
ガウリイさんに早く教えてあげましょう。きっとびっくりしますよ」。
病院から宿へ帰る途中。心から喜んでくれているアメリアに
「ありがとアメリア。でもしばらくガウリイに内緒にしときたいの」。
「ええーーっ、ダメです! そんなの正義じゃありません。
こういったことはすぐにお祝いしなくては」。
目を輝かせて、拳を天に突き上げてアメリアが力説する。
「おーい、アメリアー戻っておいでぇ。あのね、もうすぐクリスマスでしょ。
その時に言ってびっくりさせようと思って」。
「あっそうですね。リナさんそれすごいクリスマスプレゼントです。
わかりました。それまでは内緒にしておきましょう」。
「そうそう。そうしてちょうだい。それに…」
「それに何ですか?」
「今言ったら盗賊いじめできなくなっちゃうでしょ」。
ビシッ……。ニッコリ笑って言ったあたしの言葉にアメリアは硬直した。
「………リナさん……妊娠していると魔力なくなるんでは」。
「まだ大丈夫! さすがにドラグスレイブは使えないと思うけど、
ファイアボールぐらいなら軽いかるい。
だからアメリア、ガウリイに言うんじゃないわよ。
言ったらどうなるか……わかってるわよね」。
さらにニッコリして念を押すあたしを見てアメリアは
「正義って…………」。
とつぶやくのだった。
 
 
「ねぇ、ガウリイ。今年のクリスマスはびっくりするものをあげるわ!」
ガウリイとゼルガディスが見つけてきた盗賊団のアジトへと向かう途中。
あたしは並んで歩いているガウリイに宣言した。赤ちゃんができたって言ったら
どんな顔するかな? などと想像すると自然と笑みがこぼれてしまう。
「なんだよ。俺がびっくりするもの? 喜ぶ物じゃなくてか」
その言葉にはっとする。そっか絶対に喜んでくれると思ってたけど……。
だけど……。
「うーん、喜ぶかは……わかんない…」。
 
「まっ、お前がくれるんなら何でもいいや」。
悩んでいると、ガウリイはそう言って頭をなでてくれた。
うんきっと大丈夫。ガウリイだもの。
絶対喜んでくれる。不安だった心がいっぺんにあったかくなる。
 
 
「何だお前たち」。
「ふっふっふ、覚悟しなさいよ。このリナ=インバースが退治してあげるわ!」
(これでしばらく盗賊いじめもできなくなるし、思いっきりやってあげるわ)
と声に出さずに言いあたしは呪文を唱え始めた。
「くらえ、ファイヤーボール。あっ……」。
力を放った途端に体中から全ての力が抜けていく。立っていられない。
ちょっと考えが甘すぎたかな? ガウリイ………。
 
 
あれ? 目が覚めるとすぐそばにガウリイの顔があった。
よく分からないうちに抱き起こされそのまましっかりと抱きしめられる。
安心できる腕の中で徐々に記憶が戻る。そうかあたし力を使って倒れたんだ。
心配かけてごめんねガウリイ。
 
 
「だってもう今日だぞ、クリスマス。
お前1週間も意識がなかったんだからな」。
1週間も眠ってた! ぞっとする。
あたしは自分だけじゃなくてもう一人の命も危険にさらしたんだ。
ごめんねガウリイ。ごめんね、あたしの中の命。
 
 
差し出された手を取りゆっくりと腹部へとあてる
「プレゼントはここよ」
「ガウリイ嬉しい?」
 
 
「ありがとうリナ。生きてきた中で一番嬉しいプレゼントだ」。
耳元でささやかれた言葉をきっとあたしは一生忘れない。
ありがとうガウリイ、
生きてきた中で一番嬉しい言葉をくれて。
 
 
しかし翌日
「自分が何をしたのかわかってんのか。リナ!」
「だって」
「だってじゃないだろ!」
日頃のうっぷんをはらすように嬉しそうに説教をするガウリイに
あたしは密かに誓ったのだった。
呪文が使えるようになったらおぼえてなさいよー、ガウリイー。
 
 
おしまい
 
 

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