「月の輝く夜に」1ページ目♪

前書き:また、懲りずに書きました。これは、某ニフで、本気のリナとガウリイではどちらの主張がとおるだろうという話が持ち上がった時に考えたお話でっす!楽しんでいただけるとよろしいのですが。


*******

月明かりだけの暗い森の中を、二つの影が駆け抜けていく。
先をいく小さな影は、小柄な老婆。山道をいくのにその足どりは、はずむよう。
そのあとに続く影は、魔道士姿の少女。
先をいく老婆の跡を必死の形相を浮かべついていく。
吐く息は荒いが、立ち止まろうとはしない。
老婆がときおり、夜空に輝く月を見上げる。
そのとき、彼らの前に瘴気の混じった風がふきつける。
すばやくよける老婆が叫ぶ。
「リナさんや!」それより早く気配を察し、カオスワーズをとなえながら、
襲いかかるレッサーデーモンに唱えておいた呪文をぶつける。
「ライティング!」
「ぐがぁぁ!」
至近距離で眼を焼かれたレッサーデーモンが闇雲にふりまわす腕を避ける。
つぶてのようなものが、老婆より放たれる。
ばじゅうう、という音とともに白煙がレッサーデーモンをつつむ。
皮膚を舐めた酸が、筋肉にまで達する。
肉の焦げる胸の悪くなるような匂いが暗い森に漂いだす。
「ぎゅがああああぁー!」
苦鳴をあげるレッサーデーモンにさらにとどめをさすべく
タリスマンを正十字に輝かせ少女が呪文を紡いでいく。
「エルメキアランス!」
レッサーデーモンがくずれるように倒れ込む。

「はぁ、はぁ。これで、7匹か。」
少女がつぶやく。
たったこれだけのことに、ひどい脱力感に襲われる。
ふらつく身体を叱咤し、足を進めようする。
頭では先へ、先へと思うのに、身体がうまく動いてくれない。
おもわず体勢をくずし、倒れ込む。
そのままずるずると山の斜面を転げそうになり、潅木をつかむ。
それがすっぽりとぬけ、そのまま山の斜面を転げるように落ちる彼女。
老婆が何か叫んでいるが、すでに彼女の意識はその手を離れようとしていた。
朦朧とした彼女が声を出さずにつぶやいた。
「ガウリイ......」
そばに咲く可憐な花をつけたローズマリーの香りが、彼女の記憶を刺激する。

そう、あれはつい半日前......


* * * * *

それは、お昼のお食事タイムのことだった。
「あー、そのチキンのハーブソテーはあたしの!」
「おまえだって、俺の鱒の香草蒸し取っただろ!てい!」
「よくもあたしのいとしいソーセージさんを!許さん!」
いつものお食事タイム、でも なんておいしいの。
山間の小さな村だけど、ハーブを使った料理が絶品!
自家製のワイン、チーズ、ソーセージにいたるまで、なにかのハーブが
くわえられてて、食べてるだけで身体がきれいになる感じ。
おまけにこの味のよさにもかかわらず、食堂はほとんど貸し切り状態。
おかげでこころゆくまで、料理が堪能できたし。
このぶんだとデザートもすっごく期待できそう。
ウエイトレスの姉妹がまたかわいい。くるくるとよく動いてサービスしてくれる。
お姉さん、たぶんあたしとおなじくらいの年齢だろうけど、
ちらちらとあたしとあたしの連れを、熱っぽい視線で見てる。ま、無理ないか
外見だけじゃ、この金髪美形のにーちゃんに脳みそがないなんてわかんないもの。

厨房からご主人の声がかかった。
「はい、ブルーベリータルトとチーズスフレが焼きあがったよ!」
「はーい」
わーい!デザート!あたしのタルトさん、まってたわよぉ。と
あたしがワクワクしているところを、二人が運んで来てくれる。
うん?あの妹の方、あんなに赤い顔してたっけ?
ブルーベリータルトを運んでいた方が、なぜかテーブルの手前で倒れそうになる。
「ガウリイ!」
「おお!」
すばやく、ガウリイが彼女を抱き止め、
あたしはタルトの載ったお盆をキャッチする。
もう一人の方が、目を丸くしてあたしたちの連携プレーを見ていた。
「ミリア!どうしたんだ?」
ご主人が何事かと顔を出し、ガウリイの抱える女の子を見て、真っ青になった。
「朝から、熱っぽいって言ってたんだが。
マリーナ、ひとっ走り行ってアクアばあさんを呼んで来てくれ。
それとお客さん、すまないがそのままこの子を部屋に運んでくれないか?」
「ああ、かまわんが」
小さなかわいい屋根裏部屋に、彼女を運んで、ベッドにいれる。
ああ、ぐったりしてすごく苦しそう。
顔が赤くて、なんか汗の粒が、いや、小さな赤いプツプツした発疹、
え、これってまさか?
そのとき、ばたばたという足音が聞こえたかと思うと、すごい勢いでドアが
開いて、マリーナだっけ、ウエイトレスをやってた娘がはいってきた。
あ、さっき誰かを呼んでくるっていってたっけ。
「とうさん、アクアばーちゃん連れて来た。」
「ああ、ばーちゃん、どうやらかかっちまったようだ。」
「はいはい、いま診ますよ。」
その言葉とともに、マリーナの後ろから、小さな影が生まれる。
一瞬、子どもかと思った。
枯れかけた小枝のような身体、真っ白な髪、
でも両の目は、キラキラと楽しそうに光る。
なかなかぷりちーなおばあちゃんだった。
「よかったよ。まだ薬が残ってて。」
言いながら、てばやく寝込んだ少女の腫れた喉に湿布をあて、
軽く抱き起こして、薬を含ませる。

そこまでで、あたしたちは残してきたデザートさんのもとへと帰った。
デザートをいただくあたしたちに、ご主人が香茶を持ってきた。
「いやー、世話になっちまって。ありがとう。
デザートの代金はサービスしとくよ」
「えー、そんなぁ。でも、せっかく言っててくださってるんだから。
ご厚意はありがたくいただいておきます。
で、おじょうさんの具合は?」
「ああ、ま、この時間にこんだけ酒場がすいてるってのは
実は、ここ1ヶ月ほどのことなんだ。
........伝染病があって」
「で、でんせんびょうって(汗)」
思わす声がひっくり返る。
う、もしかしてやばいとこにきちゃったのかも(汗)
冗談じゃない、もし命にかかわるようなもんだったら。
「症状は、さっきも見たとおり、急に高熱が出る。喉は腫れていきぐるしいし、
咳も続く。それに見ただろう、あの、赤いぶつぶつを!
その、病魔にむしばまれるものは老若男女を問わない!」
「でえええーい!だから、なんだってのよ!その病名は!」
思わず宿のおやじの首をかっくんかっくんいわせて絞め上げる。
とっとと白状せんかぁ!
「おいおいそれじゃ答えたくても、答えられんだろうが」
止めに入るガウリイを、にらんで。
「なに言ってんのよ!もし、命にかかわるようなもんなら、
神殿跡の調査どこじゃなくなんのよ!」
そのとき、あたしの後ろから声がかかる。
「三日麻疹じゃよ」
しーーん、思わず目が点になった。
「........それって、たしか子供がかかるやつじゃぁ」
この声は、あのお医者のおばぁちゃんだ。
だけど、今のいままで気配なんかなかったぞ!

いつのまにかあたしたちのテーブルにしっかりすわりながら
香茶を飲んでいるおばあちゃん、もといアクアさんが答える。
「夏の間、ひどい風邪がはやってね。たぶんそのせいか、本来子供の病気なのに
村全体にはやっちまってねぇ。おまけに、大人がかかる方が症状が酷いときた。
いっきに同じ薬が大量にいるは、薬草の採取の人手はないわ。
おかげで薬草のストックが空になっちまってねぇ」
「ふーん。そりゃお困りですね。」
「ところで、みかけん顔じゃね?
その恰好だと、ただの旅ってわけでもなさそうじゃが?」
「ええ、この村の山の中に古い神殿跡があるって聞いて」
「ああ、こっからさほど遠くはないんじゃが、ほんとうに山の中で、道もない。
しってるもんに案内してもらわんと、迷っちまうよ。
それに、ほんとうに神殿の柱のあとぐらいだがね」
「それでもかまいません」
「それにね、ここんとこ出るんじゃよ」
「なにが?」
「デーモンが」
「へ?」
「なにも、こんな山の小さな村にこんでも、大きな町で暴れときゃいいもんを」
おいおいそれじゃ、どっかの怪獣じゃないか。

はやい話が、このアクアさんあたしたちに、薬草をとりにいくのに
護衛してくれるなら、神殿跡に案内すると言ってくれた。
それだけなら、レッサーデーモンぐらい、いつものあたしの敵じゃない。
依頼料も破格だし、引き受けて損はない話だったんだけど。
「なんせ、薬草ってのは薬効の一番のときに採取しなきゃなんなくってね。
今夜は幸い満月だろ。天の助けだよ、あんたたちが現われたのは。
ところで、まだ名前をきいてなかったね」
「リナよ、リナ・インバース、んでこっちの連れがガウリイ」
「へー、あんたがあの。」
う、こんな田舎まで届いてたのかいあたしの異名。
しかし、今夜かぁ。
う、まづい、ガウリイがなんか言いたそうにこっちを見てる。
人助けなのに。破格の依頼料なのに。
「満月でいいのは、あんたたちもだろ?」
「え?」
「言い伝えだよ。
古に混沌より、よびだされしもの。
魔とともに、人を滅ぼさん。
神により、神殿に封印される。
光の光臨は闇の刃による。
神殿の封印は、満月にやぶられる。」
訳のわからんといった表情をうかべるガウリイに、軽く溜め息をつきながら
「要するに、やばいもんを封印した神殿があって、
それが満月に破られるって言ってるみたいよ」
「やばいもんって、おまえ」
「わざわざそんなもんの封印を解きに来たんじゃないでしょ。
こないだ手に入れた魔道書に古い神殿とそこに英知を紡ぐオーブのあった
記載があったからよ。」
それだけならこんな山の中までこようとは思わなかったが、実はこの話
には、探しに行った人間が一人残らず昏睡状態でみつかるというおまけが
あったりする。
「英知ねぇ、ま、神殿自体は、降魔戦争以前のもんで、神聖魔法のオーブが
残ってるかもって、噂はあったがね。」
今のあたしは魔族に対し、どんな対抗手段であろうと取らなきゃという
わらにもすがる想いがある。
それゆえに、神聖魔法の記されたルーンオーブがあるかもって希望と
破格の依頼料は捨てがたい。
それにたとえどんな時であろうと、あたしがレッサーデーモンごときに
しっぽを巻いたなんぞと言われるのは絶対にいやだ。
しかし、ガウリイが苦りきった表情で今にもなんか言いそうだしなぁ。
なんて説得しよう。
そんなこんなで迷ってるあたしにとどめをさしたのは、
アクアさんのこの一言だった。
「ところで、あんたの姉さんには昔、世話になったんだ。
ルナさんは元気かい?」
アクアさんがそれ以上のことを言う前に、あたしは言葉じりをさえぎって、
大声で叫ぶように言っていた。
「はい!ぜひご一緒させてください!少しでもお役に立つんなら嬉しいです!」
あ、ガウリイなんか言いたそうにしてる。
「じゃ、連れと荷物を置いてきます。
おじさん、部屋はどこかしら。
あ、2階なの、いこ、ガウリイ」
ガウリイの腕をひっつかむように、部屋に向かう。

次のページに進む。