「りーさる・うぇぽん」

 
――― そのいちーっ! ―――
 
 
 
「魔族の弱点、それすなわち、人間の正の感情!
 その効果は生の賛歌で確認ずみよ。魔族に対抗するには、一番の手段なはずだわ!」
 
 ふんぞり返ってそう宣言したのは、ご存じ正義おたくの超合娘、アメリア。
 今、あたしとガウリイはセイルーンの王宮に滞在している。旅の途中、ひさかたぶりに立ち寄ったところ、フィルさんとアメリアに引き止められて、すっかり長の逗留となってしまったのだ。
 まーなにしろ宿代はタダだし、もちろんゴハンも食べ放題だし、ここのところ心身ともに休まるひまのなかったあたしも、すっかり平和なバカンスを満喫してしまっている。
 今は今とて、お城の中庭で優雅に香茶なんぞをすすりながら、魔法談義に花を咲かせていたのだけれど、こと話題がこういう方向に行ってしまうと、この熱血娘が止まるはずもない。 
 
「あのねーアメリア。そりゃ魔族は正の感情が苦手よ。
 でもね、それはせいぜいシルフィールはフィルさんが苦手だとか、ガウリイがピーマン食べれないとか、その程度の弱点でしかないの。
 ガウリイにいくらピーマンぶつけたって、それで死んじゃうわけじゃないでしょう?」
 
「いーえリナ。それは程度の問題よ。
 たとえばいくらガウリイさんだって、いきなり口の中に濃縮ピーマンジュースを流しこまれたらタダでは済まないはず!
 ましてシルフィールさんがいきなり父さんのセミヌードをアップで見せられれば! ショック死しないと言い切れる?」
 
 う………それはたしかにイヤかもしんない。
 しかしアメリア、あんた仮にも実の父親つかまえて、容赦のないことを………
 
「だから! もしたくさんの人の正の感情を束ねて増幅することができれば、高位魔族にも通用する正義の兵器ができあがるはずなのよ!
 ただし、ふたつほど問題があるのよね。
 まず第一に、通常の人間では高位魔族と向かい合って、平然と正の感情を出し続けることができない!」
 
 ま、そりゃそーである。
 ガウリイやアメリアを始めとして、なぜかあたしのまわりには正の感情ダダもれの人間がわんさといるんだけれども、そういった非常識な連中でさえ、高位魔族を目の前にすれば恐怖や緊張感が先にたつ。
 
「そして二つめの問題。
 人間の感情は1人1人違うものだから、みんなで一斉に正の感情を出したとしても、バラバラのまま。1+1は2というわけにはいかないのよ。
 なんとか全員で、同じ波長の感情を出さないと………」
 
 これもまったく、そのとーり。
 人間の精神とゆーやつは思いのほか複雑にできているらしく、たとえば赤の竜神の熱烈な信者が全員で神を讃える歌を熱唱したとしても、1人1人の感情のありかたはけっこう違うものなのだ。
 だからしょせん、正の感情を兵器に使おうなどとゆーのは絵空事に―――
 
「でもね……………解決したのよ」
 
 へ? か、解決した?
 
「幸運だったわ。まったくの偶然から、最良の素材を得ることができたの。
 強大な精神力を持ち、周囲の状況にとらわれず、正の感情を放出可能な人物。
 本来捕獲したかった人物とは違ったんだけれど………怪我の功名ってやつかしらね」
 
 捕獲だとか、本来探してた人物だとかゆー言葉がちょ〜〜っち気になったりもするんだけれど。
 それより何より、本当にいるのか? そんな正の感情のかたまりみたいな人間が?
 
「しかも幸い、入手したサンプルは複数で。
 正の感情を束ねるという問題にも回答を与えてくれたわ。
 かなり高度な魔道技術だったけど、苦節3年。再現に成功したのよ。
 でね、リナ…………その試作品なんだけど」
 
 うみゅ? なんだろう。さっきからだんだん、背中の方に妙な寒気がするような………
 
「実はここに、用意してあるのよ」
 
 アメリアはにっこり笑って席を立ち、大きな両開きの扉の前に歩いていく。
 たしかあの扉のむこうは、また別の庭園になっていたはずなのだが。
 良く見れば扉の中心には、赤い塗料で「危険」の文字が書かれていて………
 
「聖王国セイルーン魔法研究所が総力をかけて生み出した! 究極の対魔兵器!
 みよ! その成果が、今ここに!」
 
ばたん!
 
 
 
 
 
 
 
 
「おーほっほっほっほ!」
「おーほっほっほっほ!」
「おーほっほっほっほ!」
「おーほっほっほっほ!」
「おーほっほっほっほ!」
「おーほっほっほっほ!」
「おーほっほっほっほ!」
「おーほっほっほっほ!」
「おーほっほっほっほ!」
「おーほっほっほっほ!」
「おーほっほっほっほ!」
     :
     :
     :
     :
   以下×100
 
 
 
 そこにいたのは………広大な………庭園を………埋めつくす…………ナーガの………群れ………
 
 
 
 
 
「はう!」
 
 
 
 
………暗転。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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