『手と手は伝える…テツダエル』




とんとん。

 返事をするまもなく静かにドアが開く。聞いてたかな?やっぱ。そこには本来なら本日めでたくあたしのツレアイになったであろうガウリイが立っていた。
「あ、が、ガウリイさん。もうすぐお支度出来ますから、ね。男のひとは向こうで待っててくださいっていったじゃありませんか、ね?お楽しみは後から、後から・・・。」

 おひ、お楽しみって・・・。
慌てたアメリアが作り笑顔でガウリイを追い出そうとする。けれども、そんなアメリアにこの上なく優しい、けど目は全然笑ってないという怪しい表情でガウリイは微笑む。
「オレ、聞いてたんだよな。全部。」
可愛そうなくらいオロオロしているアメリア。
「とにかく、少し話す時間が必要だな。」
あたしは無言で頷く。じゃあ、と気を利かせて部屋を出ようとするアメリアをあたしは呼び止め、釘を刺す。
「アメリアもいて頂戴。お願い。」
“お願い”とまで言われてしぶしぶ陪審員のようにあたし達の傍で座り込む。妙な時に妙に強引なあいつを牽制して、悪いがアメリアに傍にいてもらう。

 苦しいほどの沈黙。どちらも自分から口火を切りたくないと言う事がありありと判る。仕方なく、水を向けるアメリア。
「ガウリイさん。リナさんは、別に結婚そのものが嫌って言ってたわけじゃないんですよ。ね?リナさん。」
「あたしは、この結婚そのものが嫌なの!」
今にも倒れそうになって白目をむいているアメリア。ごめん・・・。
「じゃあ、嫌なら仕方がない。取りやめにしよう。」
あっさりと言うガウリイ。
「あんた、それでいいの?」
「お前さんが嫌だと言うのに無理強いするつもりはない。ま、縁がなかったと思うことにするさ。」
「で、あんたはどうするの?」
「んんん?ま、また前みたいにひとりで行くさ。傭兵するくらいしか脳がないから、又昔の暮しに逆戻りさ。」
「あんた、それでいいの?あたしがやめますって言ったら、はいそうですか・・・ってやめられるんだ。」
「嫌だ、やめたいって言ったのはお前の方だぞ。それ以上オレになにができるってんだ。この場で押し倒して既成事実でも作れば満足か?泣いてすがれば結婚するのか?」
「しない。」
「だろ?じゃ、しょうがないじゃないか。」
違う、違う。こういうことじゃなくて、だんだんあたしはイライラしてきた。
「あのね、あたしは“この”結婚が嫌だといっただけで、“あんたと結婚する”ことが嫌だといった覚えはないんだけど。」
口調とは裏腹に厳しい表情をしていたガウリイの顔が、ふっと緩む。
「何が言いたいんだ?リナ。はっきり言ってくれないとわからん。オレに心を汲み取れとか言ったって無茶だぞ。」
そんなことは百も承知。それにこちらから言うなんてのも真っ平。
 
 仮死状態から復活したアメリアが大発見でもしたかのように目をランランとさせて立ちあがる。
「そう言う事だったんですか、リナさん。ええ、そうでしょう、そうでしょうとも。わたしにはわかります。そうですよね、それって乙女の夢ですもんね。」
「アメリア〜〜。やっぱりあんた友達よね。あたしの気持ちわかってくれんのってあんたくらいよね。」
「もちろんです。だてに何年も正義、いえ、リナさんの仲間やってませんから。では、そう言う事で、ガウリイさん!参りましょう。」

『え?』
あたしとガウリイがハモる。
『どこへ?』
「もちろん。リナさんのお父様のところにです。」
『はあ?』
「娘が嫁に行くその門出の日に、花婿となる方からご挨拶を受けるのは世の習わし。リナさん。花嫁の挨拶もきちんと済ませてくださいね。ちゃんと三つ指突くんですよ。さ、さくさく済ませて教会にレッツゴーです…よね?…あ…違い、ました?」
『全然違ーーーう!!!』
こひつわ、またお空のお星になりたいと見える。







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