「ここにいる理由(わけ)」1ページ目♪

「あんたはなんでそいつと一緒にいるんだ?」
 
 
 焚き火のはぜる音だけが響く、静かな夜。
 唐突に、その質問は投げかけられた。
「そいつって・・・こいつか?」
 オレは隣で眠っている少女の銀に染まった髪をなでながら問い返す。
「ああ。まあ確かにたいした奴ではあるが・・・」
「そーだよなぁ。ホントよくやったよ」
 その言葉に何故か妙に嬉しくなって、オレはつい先日の戦いの功労者
である少女の頭をぐりぐりなでた。
「ん・・・・・・」
 あ、マズイ。起きちまったか?
 しかし、そのまま目覚めた気配はないことにホッとする。
 余程疲れているんだろう。
「こほん。・・・しかしそれにしたって、だ。あんたほどの腕を・・・
しかも、伝説の光の剣を持つような奴が、一介の魔道士の娘と旅なんか
しているんだ?」
 改めて投げかけられた質問に、オレはしばらく考え込む。
「なんでって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんでだっけ?」
 
 ずるどすっ。
 
 ・・・なんかすごい音がしたなあ。
 あ。髪が地面にささってる。
「おーい。大丈夫かー?」
「あ、ああ・・・・・」
 なんとか地面から髪を引っこ抜きながら立ち直った。
「しかし・・・『なんでだっけ』とはどういう事だ?」
 ・・・なんか額に青筋がたってるけど・・・・。
 ・・・それに何故だか殺気立ってるし・・・・。
「いやあ、だって・・・なあ」
「だから、何が『なあ』なんだ?(怒)」
 あ。なんか本気で怒ってる・・・・。
 うーん。気の短い奴・・・。
「えーーと・・・・・・。ああ!そうそう。確か道の途中でたまたま
こいつと会って、そしたらアトラス・シティまで行くってんで、子供
の一人旅は危険だなーと思ってついてきたら、お前さん達と会って、
こーなったんだ」
「・・・・・・・・・・」
「ん?どーかしたのか?」
「いや・・・まあ、なんというか・・・・・そうなのか」
「ああ。そーなんだ」
 そーだ。そーだ。そーだった。
 アトラス・シティまでついていってやるって話で、一緒にいたんだよ
なーー。
 ・・・・・・・・・・あれ?
 そうすると、アトラス・シティに着いた後はどうするんだ?
「あんた・・・変わった奴だな」
「へ?」
「フツー、たまたま出会っただけの奴のためにこんなことに関わるか?
おれが出てきた時点で、見捨ててもおかしくないくらいだぜ」
 少なくともおれならそうするな、と付け加える。
「うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん・・・。
・・・そう・・・・・・なのかな?」
「だから、あんたは変わっていると言うんだ」
 呆れを含んだ苦笑。
 ・・・なんだか、初めて見た時よりも、随分雰囲気が柔らかくなった
ような気がする。
 それも、隣で眠るこの少女のせいなんだろうか?
「うーーん・・・。まあ、オレはオレがやりたいようにやっていただけ
だし。だから、これでいいんだよ。きっと」
 そう。不思議と、後悔なんてものはただの一度も訪れなかった。
 どんな最悪の状況の中でも。
「・・・変な奴だが・・・・・あんたも、たいした奴だな」
「・・・そーか?」
「ああ。・・・じゃあ、おれは先に休ませてもらうぜ。見張りは途中で
交代する」
「おう。おやすみ」
 そしてまた、焚き火のはぜる音だけが響く。
 見上げると、空には満天の星が輝いていた。
 
 
 
 
 
「あなたの行くところ、よ」
「・・・はぁ?」
 言っている意味が掴めず、思わず聞き返す。
 だってオレは、アトラス・シティに着いた後はどうするつもりかって
尋ねて、光の剣はやらないって言っただけなのに。なんで旅の行き先が
オレの行く所って話になるんだ??
「光の剣を譲ってくれる気になるまで、ずっとあなたの追っかけをやら
せてもらいますからね」
 そう言ってウインクひとつ。
 ・・・・・ああ。なるほど。
「とにかく――さ、行きましょ」
 
 ・・・えーーーーっと・・・・・。
 
 まあ、いいか。
 このまま一緒に旅を続けるのも悪くはないし。
 何より、こんな奴ほっておいたらどーなるかわかったもんじゃない。
 きちんと見ていてやらないとな。うん。
 一人でさっさと歩いて行ってしまう小さな背中を追いかけながら、オ
レはそんなことを考えていた。
 
 
 
 ある晴れた日の、これが始まり。
 

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