「ここにいる理由(わけ)2ページ目♪


 「しっかし・・・前から不思議に思っていたが、なんであんたみたいな
のが、あんな小娘と旅しているんだ?」
 
 
 からん。
 溶けた氷がグラスにあたって澄んだ音をたてる。
 なんの前触れもなく、その質問は投げかけられた。
 ・・・あれ?この状況ってなんか前にも・・・。
「・・・なあ。前にも同じような事聞かなかったか?」
 しかし。
「聞いてねーよ」
 憮然とした顔でそう言われる。
 あれー?確かに同じ質問をされた記憶がある・・・・・・・・ような
気がするんだけどなあ?
「・・・私もそのような問いかけをしたことはないぞ」
 ・・・・・うーーん。顔を向けただけで即刻切り返されてしまった。
 気のせいかなあ?まあいいや。
「なんで旅してるって言ってもなぁー。えーーっと・・・確か前はあい
つがオレの剣をほしがっていたからで・・・。今はオレの新しい剣を探
しているから・・・ってトコかな?」
「剣・・・・ねぇ。色気のねー話」
 なぜかため息と共にしみじみと呟く。
「剣と言えば・・・人間の男よ。今使っているその剣を貸してみろ」
「へ?オレのか?」
 頷きに、オレは素直に剣を渡した。
「このままでは、魔族相手には力不足だろう。・・・あの娘を守るのに
も、な」
 そう言うと剣を鞘から外し、いきなり刃で自分の指を切りつけた。
 何を、と思う間もなく、刀身に指で何やら変な模様を描いていく。
 やがてひととおり描き終えると、剣をまた鞘へと戻し、オレへとよこ
した。
「これで幾分、使えるようになったと思うぞ」
「何をしてくれたんだ?」
 剣を鞘から外して眺めてみるが、なぜかさっきの模様はさっぱり見え
なくなっていた。
「いわゆる文様刻印による強化呪法だ。これによって剣の強度・切れ味
共にあがっている。下級魔族程度なら一刀両断できるぐらいには、な」
「すっ、すげーじゃねえかよ!それ!!」
 ・・・・・えーーーっと・・・・・・・・・・。
「つまり、なんかわからんがこいつを強くしてくれたんだ?
ありがとなっ!!」
「おいおい・・・・・」
「・・・いや、まあつまりはそういうわけなのだが・・・」
 あれ?なんか冷たい目で見られているよーな・・・。
「・・・まあよい。代わりに私からもひとつ聞かせてもらおう」
「ん?何をだ?」
「お前は何故、あの娘と共にいるのだ?」
 ひたり、とまっすぐこちらを見ながら問いかけられた。
「おいおい。そりゃさっきの俺と同じ質問じゃねーか」
「へ?だから・・・剣を・・・」
「それはあの娘が持つ理由だろう?お前自身があの娘と共にいる理由は
    ・・・         ・・・・
なんだ?」
 ・・・・・・へ?
 オレ自身の・・・理由?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんなものあったっけ?」
「だからあんたに聞いてるんじゃねーかよ!!」
 なぜか横から怒ったような声が飛んでくる。
 問いかけた当の本人は、ただ黙ってオレの答えを待っていた。
 いや、でもなぁ・・・。そんなこと言われたって・・・。
「よくわからん」
「おいおい・・・」
 横から呆れたような声。
「わからぬ・・・か」
 向かいでは、わずかに苦笑を含んだような響き。
「ああ。難しーことはよくわかんねーし・・・。それに。
人と人って、いちいちそーいう事考えて一緒にいるもんか?」
 
   隣を見ると、あいつがいる。
   それはもう、理屈じゃなくて。
   ただ、当然の事としてそこにある。
 
「それは・・・まあ・・・」
「成程、な」
 オレの言葉に、二人はそれぞれなんとなく納得したようだった。
 
 
『・・・変な奴だが・・・・・あんたも、たいした奴だな』
 明日も早いからと、それぞれ布団にもぐり込んだ頃、オレは不意に思
い出した。
 ああ、そうだ。
 まだ、あいつと出会ったばかりの頃だったっけ。
 あの時と、同じ質問。
 でもあの時とは、少しだけ違う気持ち。
 どこがどうとは、言えないけれど。
 窓の外に映る夜空には、銀色の月がぽっかり浮かんでいた。
 
 
 
 
「――ま、いーか」
 そう言ってオレは、栗色の髪をくしゃっ、となでた。
「・・・へ・・・?いい、って何が・・・?」
 不思議そうにオレを見上げてくる赤い瞳に、オレは笑って答えた。
「お前さんといっしょに旅するのに、別に理由なんかいらないだろ。
ま、気の向くままの旅、ってことでいーんじゃねーか?」
「・・・・・そだね・・・」
 そのままわしわしと頭をなで続けるオレを怒りもせず、どこか嬉しそ
うに笑って呟く。
 その様子になんだかオレまで嬉しくなる。
 
 オレの隣には、こいつがいて。
 
 こいつの隣には、オレがいる。
 
 それはたったそれだけの、一番大切なことなのかもしれない。
 
 
 
 
 
 
 
「よし!それじゃ行くわよ、ガウリイ!!」
 
「あっ、おい。待てよ、リナ!」
 
 
END
 

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