「You are not alone」1ページ目♪


 −・・・会いたいなあ・・・・・・会いたい。
 アメリアは窓から夜空を見上げて小さな溜め息をついた。
 旅を終えて、セイルーンに戻り半年が過ぎようとしていた。
 ・・・一日、過ぎる毎に旅をしていた日々が恋しくなる。・・・・・・そしてゼルガディスのことも。
 窓を開けて待っていたら、ふと現れるのではないか、とすら思ってしまう。・・・迎えに来てくれるのではないか、と。
 あり得るはずもない事なのに。
 ・・・そんなことをしたら、それはもうゼルガディスではないことをアメリアは知っている。それでも夢見てしまうのが乙女心と言うものだろう。伝承歌と同じくらい子供の頃から耳にした妖精物語。正義の味方には倒すべき悪がいる様にお姫様には必ず王子様がいるものだ。
 −・・・ゼルガディスさんが・・・・・・王子様・・・・・・?
 そんなことを考えてしまう自分にアメリアは苦笑した。
 そして、もう一つアメリアの気を重くさせているもの・・・それは彼女が帰城してからというもの日毎に増えていく求婚者達の数だった。たぶん・・・3日後のアメリアの誕生日パーティーにはその数はピークに達するだろう。
 しかし、アメリアは知っていた。
 皆が望むのはセイルーン王国の第一王子フィリオネルの次女であるアメリアで決して彼女自身ではない。それでもアメリアに彼等を責める事は出来なかった。それが人間とゆうものなのだから・・・。昔の自分だったらそれを悪と呼んだかもしれない。しかし旅の中での生活は彼女を変えた。・・・・・・解っていても、やはり自身が望まれているのでないことはツラかった。・・・旅の中、アメリアは普通の娘でいられた。一番、自分らしくあれた・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・ゼルガディスさん・・・」
 返事がないのを知りながら、それでもアメリアは呟いた。・・・彼の名を。
「・・・・・・何だ?」
 −・・・え?
 ・・・有るはずのない声を聞いてアメリアは驚いた。
 振り返る。
 ・・・・・・・・・・・・そこには彼がいた。扉が開いたままの状態でそのノブをまだ掴んでいる彼が。別れた時と、変わらぬ姿の彼が。
 アメリアはそれが現実だと判るのに時間がかかった。
「・・・・・・嘘・・・。」
 そんな言葉がアメリアから溢れ出る。
「・・・俺は幻でも幽霊でもないつもりだが?」
 ちょっと、無愛想な声の調子も彼のものだ。
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・ドアなら、ノックしたぞ。」
 −そうじゃない、そんなことが知りたいんじゃない。
「・・・・・・どうして?」
 幻ではないと、幽霊ではないと彼は言う。それでも、アメリアには佇む彼は自分の願いが高じて現れたただの幻影に思えてならなかった。・・・手を伸ばしたら消えてしまう夢の産物だと。
「・・・お前、リナとガウリイにパーティーの招待状を出しただろう?」
「−え?・・・あ、はいっ!!」
 突然の現実じみた質問にアメリアの反応が遅れた。
「それで・・・あの二人につい3日前、偶然再会したら無理矢理、連れてこられたんだよ。」
 −・・・・・・無理矢理・・・。そっか、そうだよね。
 ・・・一瞬、淡い期待を抱いてしまった自分をアメリアは嘲笑った。
「・・・それで、二人は?」
「あいつらは疲れたーとか言ってさっさとあてがわれた部屋へ行っちまったよ。挨拶は俺に任せて、な。何しろ着いたのが先程だから。」
 苦虫を噛み潰した様な顔をするゼルガディス。
「・・・そう、ですか。」
「ああ・・・それだけだ。じゃあな。」
 ゼルガディスはそう言うと踵を返した。
「あ!待って下さい、ゼルガディスさん!!」
「・・・何だ?」
「あのっ!パーティーにはゼルガディスさんも参加するんでしょう!?」
 −・・・違う。こんな事が聞きたいんじゃない。
 なのに口から出る言葉は関係のない言葉ばかり・・・。
「みんな、一杯の方が楽しいし!!」
「え?いや、俺はパーティーは性に合わん。だから、明日にでも失礼するよ。ここまで来たんだ、リナ達も文句はないだろう。」
 それだけ言うと彼は今度こそ出て行ってしまった。
 残されたアメリアは何とも言えない気持ちを味わっていた。
 
 
「それで、どうだった?」
 リナがにやにやと笑いながら聞いてくる。
「何が?」
「もう!昨晩の事よ!遠慮してゼルだけ行かせたでしょ(はあと)」
 アメリアは力なく項垂れた。
 いつもは必要以上に明るいアメリアが沈んでいるのを見て、リナは
「・・・どうしたのよ?」
「・・・ゼルガディスさん、今日出ていくって・・・。」
 口にするとまた悲しさが増す。
「何ですってえ!?ゼルは何処よ!!さっアメリア、行くわよ!!」
 リナはアメリアの手を取ると走った。
 
 
「・・・・・・行くのか?」
 ガウリイは身支度をしているゼルガディスに訊ねた。
「・・・ああ。」
「・・・・・・いいのか?」
「・・・俺には・・・・・・ダンナみたいに誰かを守るなんてこと出来ないからな。」
 ゼルガディスは寂しそうに言った。
 ガウリイにはゼルガディスの気持ちが痛い程よくわかった。・・・昔の、傭兵時代のガウリイがそこにはいたから。だから、自分には止める事が出来ない事も知っていた。
「・・・後悔、だけはするなよ・・・・・・」
「・・・・・・するかもな。」
 後悔するだろうことをゼルガディスは知っていた。だが知っているからといってどうすることが出来るのか?
「・・・昨晩アメリアを見て、正直戸惑った・・・」
 呟く様に語る。ガウリイは何も言わない。
「・・・女って・・・ちょっと見ない間に・・・変わるもんだな。」
 見ていたって、変わるもんさ。ガウリイはそんな言葉を呑み込んだ。
「・・・アメリアは・・・たぶん・・・」
「知ってるよ。でも・・・・・・そんなのすぐに忘れちまう。」
 ガウリイの言葉をさえぎってゼルガディスは言った。
「・・・・・・どうだろな。」
 城の中の慌ただしさが遠くに聞こえる。
「・・・ダンナも見ただろ?」
「ああ。」
「・・・・・・盛大なパーティーだ。・・・俺とは住む世界が違う。・・・違い過ぎる。それに・・・」
「求婚者か。」
 今日のガウリイはあまりに鋭すぎた。ゼルガディスは苦笑する。
「・・・あいつと、同じ世界に住む奴等だ。・・・・・・あいつの欲しいものはなんだって与えてやれる奴等だよ・・・。」
 ガウリイは心の中で呟いた。
 −でも、一番欲しいものは与えてやれないだろう。あいつらには。
「・・・・・・それで、お前も、アメリアも、幸せになれると思ってるのか?」
 ガウリイの一言にゼルガディスはキレた。
「お前に何がわかる!?・・・もし、あいつが俺を選んだ事を・・・後悔したら!?・・・遅いんだよ、その時じゃ!!!」
 声を荒げるゼルガディスをガウリイは冷ややかな瞳で見据えた。
「・・・後悔?結構な事じゃないか!・・・人生なんて後悔の連続だろ!?・・・それを恐れて逃げるのか?お前は。・・・・・・俺にはアメリアが後悔なんて言葉で諦める様な女には見えないがな。」
 −・・・俺は何を言ってるんだ?別にこいつがどんな選択をしようと知った事じゃないはずなのに・・・。
  リナのお節介がうつっちまったかな?
「・・・・・・・・・俺に・・・どうしろって言うんだ?」
 押し殺した声。
「・・・自分に、そして相手に恥じない選択をしろ。」
 言い残すとガウリイはその場を去って行った。
 
 
「ゼルっっ!!!」
 リナはゼルガディスの姿を認めると彼の名を叫んだ。
「・・・・・・何か用か?」
 近寄って訊ねた。
 リナの横にはアメリアの姿。
「何か、ぢゃないでしょう!!!何で今日、出ていく必要が有るのよ!!!」
 リナは思いっきり睨み付けた。
「・・・隣街に用が有るんだ。」
 納得が行かない、とでも言いたげなリナの顔。アメリアはいつもの様な元気がない。ゼルガディスは溜め息をついた。
「・・・・・・アメリア・・・」
「・・・はい?」
「・・・・・・パーティーは何時からだ?」
「え?」
 アメリアはきょとんとした顔になる。
「・・・遅れるかもしれんが・・・来れるよう努力はする。」
「・・・!!」
 アメリアの顔が輝く。
「はいっ!!ちょっと待ってて下さい。今、招待状を書いて持ってきます!!」
 アメリアは嬉しそうに言うと足早に駆けて行った。
「・・・努力じゃなくて、来るのよ。絶対。」
 リナが念を押す。
「・・・・・・・・・ダンナが、さ・・・」
「?・・・ガウリイがどうかしたの?」
「・・・・・・自分と、相手に恥じない選択をしろ、って・・・」
 リナは驚愕した。
「へええ〜、あのガウリイがねえ。・・・・・・そんな気のきいた事を・・・明日は嵐ね・・・。」
 無言で頷くゼルガディス。
「・・・でも、これだけは言っとくわ。あたしは・・・アメリアのあんな元気のない顔を見たくないからね!」
 2人は同じ方向を向いている。・・・先程アメリアが駆け去った方向を。

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